2025年8月、ワシントンD.C.の街にはすでに州兵が展開している。
トランプ大統領は新たに「警察任務に特化した部隊」を編成し、全米の都市に投入する意向を示した。
治安維持という名目だが、その真の狙いと効果については激しい議論が巻き起こっている。
大統領の思惑と「青い都市」への視線
トランプ氏は演説で「全米の治安悪化は民主党が支配する都市で起きている」と強調。
実際に挙げられた25の高犯罪率都市の多くは民主党系の市長が治める地域だ。
しかし統計を見れば、犯罪率の高さは共和党支持地域にも存在しており、大統領が「青い州・青い都市」を狙い撃ちしているとの批判は避けられない。
イリノイ州知事J.B.プリツカーは「これは治安対策ではなく、政治的ライバルを威嚇するための軍事利用だ」と強く反発。
シカゴへの派兵を「不要かつ不当」と一蹴した。
州兵は「警察」になれるのか?
元D.C.警察幹部で、米国会警察やイリノイ州警察のトップを務めたテリー・ゲイナー氏は州兵投入に警鐘を鳴らす。
警察官は半年以上の訓練に加え、1年以上の現場指導を受けて初めて一人前になる。
一方で州兵は主に戦闘・災害対応に特化しており、「銃を持たせて街に立たせても、複雑な市民対応には不向きで危険だ」と断言。
誤った武力行使のリスクを指摘した。
矛盾する予算政策
さらに批判を招いているのは予算面だ。過去数年、連邦政府は司法省の治安対策助成金を大幅に削減。
・地元警察と大学などが連携して犯罪原因を研究する「スマート・ポリシング・イニシアチブ」
・凶悪犯罪に特化した「プロジェクト・セーフ・ネイバーフッド」
などのプログラムが打ち切られており、「予算を削っておいて、後から州兵を送り込むのは矛盾だ」と現場の警察関係者は不満を漏らす。
「犯罪減少」統計操作疑惑
一方、共和党主導の下院監視委員会はD.C.の犯罪統計が操作されているとの疑惑を調査中。
大統領が「犯罪は減っていない」と主張したのが発端だが、証拠は乏しい。
専門家は「一部の不正を全体に拡大解釈している可能性が高い」と慎重な姿勢を示す。
治安かパフォーマンスか?
治安悪化は全米共通の課題である。
しかし、本来求められるのは地元警察や司法当局との協力強化であり、軍事力の投入ではない。
ゲイナー氏も「州兵には役割があるが、それは災害や大規模イベント時の支援に限られる。
犯罪抑止を軍隊に頼るのは職務放棄に等しい」と断じる。
展望
トランプ大統領は「民主党都市の無秩序を正す」という政治的メッセージを前面に押し出しているが、軍事利用の是非を巡る論争は今後一層激化するだろう。
住民にとって切実なのは「誰が統治するか」ではなく「街の安全」そのものである。
州兵派遣が治安改善につながるのか、それとも政治的パフォーマンスに終わるのか。
アメリカの民主主義にとっても試金石となる局面だ。
👉 あなたはどう考えますか?「州兵の治安出動」は治安維持のために必要か、それとも政治利用にすぎないのか。