NVIDIAが発表した最新決算は、市場全体に軽い失望感を与えた。
株価は時間外で2〜3%下落と限定的な反応に留まったものの、投資家の期待が極端に高まっていた分、「小さな減速」が大きく映ってしまったのだ。
今回のポイントを整理してみよう。
予想に届かなかったQ3売上見通し
市場は550億ドル以上の売上予想を期待していたが、会社側が示した見通しは540億ドル(±2%)。
一部では630億ドルの“強気シナリオ”まで囁かれていたため、わずかな未達が「成長鈍化」のサインと受け止められた。
データセンター成長の鈍化
NVIDIAの核心事業であるデータセンター売上はQ2で411億ドル。前年同期比+56%と依然驚異的な伸びだが
前期比では+5%にとどまった。
特に注目されたのは、クラウド大手(Google、Amazon、Microsoftなど)による需要。
ここが全体の50%を占めるが、AIインフラ投資が「一巡」しつつあるのではとの懸念が浮上している。
BlackwellアーキテクチャGPUは四半期ベースで+17%成長と力強いが、まだ売上全体に占める割合は小さく
H100や旧世代製品が売上の大部分を支えている現実がある。
中国リスクとH20問題
中国向け売上は規制強化で45億ドル超の減損を計上済み。
今回もH20シリーズ販売の落ち込みが響き、コンピュート売上が前期比▲1%となった。
会社側は「輸出規制の影響」と説明しているが、果たして一過性なのかは見極めが必要だ。
4. ゲーミング部門は回復傾向
一方でゲーミング向けGPU(RTX 5090など)は好調。
長らく低迷していたPC向け売上が回復し、セグメント全体を下支えしている。
5. 株主還元とバリュエーション
株主還元策として600億ドルの自社株買いを発表。
PERは約40倍、PEGレシオは2倍弱と依然として「許容範囲」にあるが、この前提は高成長が続くこと。
もし成長率が20%台まで鈍化すれば、再評価リスクが高まる。
投資家が意識すべき論点
- クラウド大手の投資ペース鈍化
AI投資の初期フェーズが終わり、ROI(投資収益率)の検証段階に入っている可能性。 - AI需要のコモディティ化
LLMが普及すれば、複数サービスに投資する必要がなくなり、成長率が落ち着くリスク。 - ソフトウェアへのシフト
ハード投資からSnowflakeなどAIソフト・プラットフォーム銘柄に資金が移動する可能性。 - 中国規制の長期化
H20の不振が一時的か、構造的な売上減少か。
今後のシナリオ
- 強気ケース
Blackwellの本格量産が加速し、クラウド大手が再び設備投資を拡大。売上成長率30〜40%台を維持。 - 中立ケース
クラウド投資は横ばい、中国規制も継続。成長率は20%台前半へ。株価は高値圏でレンジ推移。 - 弱気ケース
AI需要が一巡し、投資家が「AIバブルのピークアウト」を意識。成長率10%台、バリュエーション調整へ。
まとめ
今回の決算は「崩壊」ではなく「小さな失望」だ。
依然としてAIサイクルの中心にいるのはNVIDIAだが、期待値が膨らみすぎた市場に現実を突きつけた。
投資家にとって重要なのは、この失速が一時的(中国・H20要因)なのか
あるいは構造的(クラウド投資鈍化・AI成長の頭打ち)なのかを見極めることだろう。
AIバブルの熱狂が持続するのか、それとも「次の勝者」がソフトウェアや応用領域へと移っていくのか。
今回の決算はその転換点を示唆するサインになり得る。