TSMC最先端「2ナノ」技術流出疑惑の衝撃と本質 日本の比ではない台湾の受け止め

台湾の半導体産業を直撃した先端技術流出疑惑が、現地で連日トップニュースとして扱われている。

焦点はTSMCの2ナノ製造技術

台湾検察は7月末に捜査に入り、現職のTSMC社員、元社員、そして東京エレクトロン(TEL)の元TSMC社員を拘束。

テレワーク中にイントラネットへログインし、画面を数百枚規模で撮影していたとされる。


目次

事件の経緯

・7月末:TSMCの告訴を受け、台湾検察が捜索。TEL新竹拠点も対象とされたと報じられる。
・8月5日:検察が「国家核心技術流出」案件と発表。TSMCは即日「情報漏洩を一切許容しない」と声明。
・8月7日:東京エレクトロンが「元従業員が関与」と認め、解雇済みと説明。

台湾メディアはその後も詳細を報じ続けており

撮影枚数400〜1000枚3分未満のログインを繰り返す手口などが伝えられている。

容疑者は3人にとどまらず、最大10人規模の関与が疑われている。


台湾で大問題となる理由

  1. 対象が2ナノ技術
     AI需要を背景にTSMCの利益率を押し上げる核心中の核心。台湾にとって「シリコンシールド」と呼ばれる安全保障の象徴。
  2. 国家安全法の初摘発
     2022年の改正以降、「核心技術案件」としての摘発は初。想定対象は中国だったが、日本企業が関与したと報じられたことで衝撃は大きい。
  3. 社外関係者の関与
     内部犯行に加え、サプライヤー企業の人間が絡んだ疑いが指摘され、サプライチェーン全体への信頼に関わる問題となった。

日本との温度差

日本では報道が一巡後に沈静化。

一方台湾では「TSMCがTELに賠償請求を行うのでは」との観測が出ている。

TEL装置はTSMC先端ラインに不可欠であるにもかかわらず、TSMCは自ら検察に告訴した。

これは抑止のためのゼロトレランス姿勢の表れであり、台湾社会は「徹底追及すべき」と受け止めている。


Rapidusとの連想

台湾では「日本で2ナノを進めるのはRapidusしかない → 渡した先では?」という憶測が根強い。

・Rapidusは2027年に2ナノ量産を掲げており、現地では懐疑的な見方が多い。
・会長が元TEL幹部で、現社長も直系人脈。人間関係の近さが憶測を呼んでいる。

ただしRapidusの関与を裏付ける証拠は一切ない

また、TELにとってTSMCは売上の2割を占める最大顧客であり、信頼を損なう行為をする合理性はない


熊本工場の遅延と需要の問題

TSMC熊本第2工場(7ナノ)は稼働延期が報じられている。

理由は交通インフラや米国投資負担などとされるが、本質は需要の質だ。

AI向け先端半導体は逼迫しているが、自動車や家電向けの需要は鈍化。

日本市場で7ナノを十分に消化できるかは不透明。

2006年にモリス・チャンが指摘したように、必要なのは工場ではなくファブレス企業の育成

AppleやNVIDIAのように設計主導で需要を作り出す企業がなければ、投資持続性は弱い。


今後のシナリオ

  1. 沈静化:TELがディスカウントや追加コンプライアンス強化で和解。取引継続。
  2. 緊張持続:Rapidusへの憶測が続き、価格・条件が厳格化。
  3. 悪化:法人関与の証拠が出れば、部分的取引制限もあり得る。

9月には台湾の半導体イベントでTSMCウェイCEOとTEL川井社長が顔を合わせる予定。

この場での発言が、関係修復か対立かの分岐点となる。


結論

この事件は単なる企業不祥事ではなく、国家安全保障と産業覇権を直撃する案件だ。

・サプライチェーンに参加する資格は技術力だけではなく信頼の設計が問われる。
・日本は補助金による工場建設だけでなく、ファブレス企業と需要創出を進めなければならない。
・Rapidusを含む日本勢は、透明性と誠実な対応で憶測を断ち切る必要がある。

TSMCが自ら公にしたのは「徹底追及こそ最大の防御」という姿勢の表明だ。

日本側も「個人の問題」と軽視せず、誠実な開示と再発防止で応えることが求められる。

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