米中対立が激化する中で、インドの外交スタンスが今、重大な転機を迎えている。
その最前線にいるのが、ナレンドラ・モディ首相だ。
🧭 トランプの“外交乱打戦”とモディ首相の距離感
最近、ニューヨーク・タイムズ紙が報じたある内容が波紋を呼んだ。
トランプ元大統領がモディ首相に電話をかけたが、モディ氏がそれに出なかったという。
その背景には、トランプ氏がしばしば事実を歪めて「交渉済み」と公言する外交スタイルへの警戒心がある。
「停戦の仲介者」という虚構
トランプ氏はかつて、インドとパキスタンの停戦は自分の功績だと発言したが、これは外交プロトコルを完全に無視した一方的な主張だ。
実際、インド側は「第三者による仲介は一切受け入れない」という明確な原則を持っており
この発言はインドのレッドラインを明確に超えている。
💢 戦略的パートナーに対する「侮辱」的対応
さらにトランプ政権下では、ピーター・ナバロ氏などの側近が「インドは傲慢だ」「独裁国家と手を組んでいる」といった侮辱的発言を繰り返した。
これは単なる感情論ではない。アメリカの外交政策が「選挙目当ての短期的勝利」へと堕落している兆候と見る向きもある。
特に象徴的だったのは、パキスタンの軍幹部と同時期にモディ首相をワシントンに呼び寄せようとした動きだ。
あたかも“ノーベル賞用の写真撮影”のために印パ両首脳を同席させようとしたかのような外交演出に、インド側が応じるはずもない。
🔥 米国の“ダブルスタンダード”が突きつける現実
「インドはロシアから石油を買っているから裏切り者だ」というアメリカ側の言い分には、冷笑を禁じ得ない。
なぜなら、アメリカ自身が独裁国家と数多くの関係を築いてきた歴史があるからだ。
冷戦期にはパキスタン、サウジアラビア、エジプト、現在では北朝鮮やベトナムとも接触を深めている。
“民主主義”を掲げながら、その基準は恣意的に運用されているという現実が、今や誰の目にも明らかだ。
🧊 インド・中国関係の“現実主義的リセット”
その一方で、モディ首相は中国・習近平主席との会談に臨む姿勢も崩していない。
もちろん、2020年のガルワン渓谷での衝突により、両国関係は歴史的な冷却状態にある。
中国側が条約を破り有刺鉄線付きの棍棒で襲撃したという事実は、インド国民の記憶に強く残っている。
しかし、ここにきて再び中印の接触が増加していることには意味がある。
✅ なぜ今、対中交渉なのか?
- 米国が信用できなくなった今、地政学的バランスを再構築せねばならない
- 中国経済も減速し、インド市場を必要としている
- モディ政権は「戦略的自立(Strategic Autonomy)」を掲げ、多極世界を志向している
すでに中印間では、空路の再開、貿易の回復、共同開発プロジェクトの模索などが始まっており
「敵視しながらの協力」という冷静な現実主義外交が動き出している。
🧠 信頼より「検証」:21世紀の国際関係
番組内で何度も繰り返された言葉がある。
「国際関係に信頼はない。あるのは利害だけだ」
これは冷たい現実だが、的確な洞察だろう。“Trust but verify”(信じて、検証せよ)という旧ソ連の格言を思い出す。
インドは今まさに、検証可能な枠組みを築きながら多国間関係を編み直している最中だ。
🧭 今後のシナリオとリスク分散
米国が再び制裁を強めるか、それとも一時的に矛を収めるか。
中国が再度侵略的行動に出るか、それとも経済重視に転じるか。
いずれの可能性も排除できないなかで、インドが取るべき道は一つ。
「誰の側にも立たず、常に自国の利益と選択肢を確保する」こと。
これは単なる外交ではない。独立後インドが一貫して守ってきた「非同盟」の進化形としての“マルチ・アライメント”の実践だ。
🪖 最後に:戦略的レッドラインを守り抜く意志
モディ政権はすでに明言している。
以下の三つのレッドラインは譲らないと。
- 印パ間の第三者調停は絶対に拒否
- ロシアとの石油取引は継続
- 国内の農家・漁民・中小産業を守るため、貿易自由化には慎重姿勢
この「戦略的レッドライン」があるからこそ、インドは世界の中で“揺るがぬ中間軸”としての地位を築いている。
🌏アメリカでも中国でもない、自分の軸を持った外交。
それが今のインドの本当の強さだ。
多極化する世界の中で、インドがどこまで“選ばれる国”として歩んでいけるか。今後の動きから目が離せない。