アメリカの雇用市場に異変が起きています。最新の雇用統計は、4か月連続で低水準の雇用増加という結果を示しました。
5月から7月までは月平均で約3.5万人、8月も同程度という厳しい数字。
つまり、足元の雇用市場はすでに減速局面に入っているのです。
にもかかわらず、一部の政策当局者は「失業率はまだ低い」「インフレ指標を見極めてから判断すべき」といった姿勢を崩していません。
しかし歴史を振り返れば、失業率が大きく上昇したときには、すでに景気後退が始まっているのが常です。
つまり「数字が悪化してから対応する」のでは、常に手遅れになるのです。
長期失業率のチャートが示す危険信号
特に注目すべきは「27週以上の失業者数」の推移です。
これは景気後退局面で遅れて急上昇する傾向がある指標で、1950年代から2000年代にかけて繰り返し同じパターンを見せています。
・1950年代:景気後退が始まった後に急増
・1970年代:不況の8割方が進んだところで急増
・2009年リーマンショック後:不況がほぼ終盤に差し掛かってからピーク
いずれのケースでも、スパイクを確認できるころには不況の真っ只中でした。
現在のチャートは、その「立ち上がり」に差し掛かったばかり。
これは、景気後退がすでに始まっている可能性を強く示唆しています。
市場の反応 ― テクノロジー株の調整と不動産株の急伸
この労働市場の弱さを受けて、マーケットは大きく動きました。
・NASDAQ(ハイテク株中心)はすでに「織り込み済み」と見なされ、売りが優勢に。
・一方で不動産関連株は急伸。特にロケット・モーゲージ(Rocket Mortgage)は6%近い上昇、オープンドア(OpenDoor)は一時11%超の上昇を見せました。
背景には住宅ローン金利の大幅低下があります。
景気後退懸念が強まればFRB(米連邦準備制度理事会)は利下げに踏み切る公算が高まり、金利敏感株である不動産関連が恩恵を受けやすくなるのです。
パウエルは「Mr. Too Late」になるのか?
ドナルド・トランプ前大統領は「雇用統計を無視するな、対応が遅れれば不況に突入する」と繰り返し警告してきました。
市場関係者の間でも、ジェローム・パウエルFRB議長が「遅すぎる男」になるのではないかという不安が広がっています。
確かにFRBは「インフレ率のデータを確認してから」と慎重姿勢を崩していません。
しかし現実には、労働市場が4か月連続で悪化し、長期失業率も立ち上がり始めています。
景気後退が深刻化する前に金融緩和に舵を切るかどうかが最大の焦点です。
ソフトランディング幻想の終わり
私は今回の一連のデータを「ソフトランディング(軟着陸)幻想の終わり」と捉えています。
これまで市場は「高金利でも経済は耐えられる」と強気を保ってきましたが、雇用統計の連続悪化はその前提を崩しました。
しかも、失業率の上昇や長期失業率の急増は常に「後追い指標」であるため、FRBが数字を見てから対応すれば必ず遅れます。
結論:市場はすでに「利下げありき」のシナリオに移行しつつある。
その結果、金利敏感株(不動産・住宅関連)は短期的に上昇余地がありますが、逆にハイテク株の一部は「期待先行で買われすぎた部分」が剥落していくでしょう。
2025年秋、市場は「景気後退入りを織り込む段階」に入りました。
ここから先は、利下げによる一時的な安心感と、実体経済悪化という現実の板挟みが続くと予測します。