米国大統領ドナルド・トランプが再びインドをめぐる発言で波紋を呼んでいます。
わずか1日の間に「インドとロシアは中国の陣営に行ってしまった」と批判したかと思えば、「モディ首相は偉大な友人だ」と称賛。
関係修復を図る姿勢を見せるも、既に両国関係には亀裂が走り始めています。
では、いま何が起きているのか。
トランプの発言の軌跡
・第一弾:対中ロ接近を批判
トランプはTruth Socialに「インドとロシアを失った。我々の最も深刻な敵、中国と深く結びついた」と投稿。
モディ首相がプーチン大統領や習近平国家主席と並ぶ写真を添え、象徴的に「インドの裏切り」を示唆しました。
・第二弾:翌日の“軌道修正”
一転してホワイトハウスで「モディは素晴らしい友人だ。今やっていることは好きじゃないが、友情は続く」と発言。
笑顔を見せて火消しを試みましたが、発言の揺れ幅は外交的に深刻なメッセージを残しました。
背景にあるエネルギー問題
トランプの苛立ちの根源は、インドの対ロシア石油輸入の急増です。
・欧米が制裁を強める中でも、インドは割安なロシア産原油を購入し続け、国民生活を守る戦略を優先。
・インド政府は「国益のため。欧州も中国もロシアエネルギーを買っている」と反論。
・それにもかかわらずトランプは「50%の関税」という報復案まで口にし、既に7月には25%の関税を課していました。
つまり、米国は「インドの選択」を地政学的裏切りと見る一方
インドは「経済合理性」として正当化しており、両者の認識は根本的に噛み合っていません。
米印関係を揺さぶる“言葉の爆弾”
火に油を注いだのが、トランプ政権で貿易顧問を務めたピーター・ナバロ氏の発言です。
・インドを「クレムリンのオイル・マネーロンダリング拠点」と批判。
・さらには「ウクライナ戦争はモディの戦争だ」と挑発的に表現。
インド国内では与野党問わず強い反発が起き、「外交上の無礼」だとの声が相次ぎました。
こうした発言は、米印の信頼関係を傷つけ、インド世論に“反米”の温床を作りかねません。
インドの戦略 ― 綱渡りの外交
インドは「戦略的自立(Strategic Autonomy)」を掲げ、西側と中国・ロシア陣営の双方と関係を維持する方針を崩していません。
・米国との関係では、防衛産業や技術協力を進展させつつも、
・ロシアからは依然として兵器とエネルギーを調達。
・中国とは国境紛争を抱えながらも、多国間会議では「協調する姿勢」を見せる。
つまりインドは、「東西いずれにも完全には寄らない」という外交術を駆使し続けています。
トランプ再登場で何が起きるか
トランプのスタイルは一貫して「ディール型」です。褒めては圧力をかけ、揺さぶりながら自国の利益を最大化する。
今回の“インド批判→友情強調”の二段構えも、その延長線上にあります。
しかし問題は、このアプローチがインドに通用しにくい点です。
・インドは「経済規模と人口」で既に米国の“パートナー”ではなく“独立した大国”として振る舞っている。
・米国が圧力を強めれば、逆に中国やロシアへの傾斜が進むリスクがある。
・結果として、米国が望む「インドを西側に固定化する戦略」は揺らぎやすくなる。
今後のシナリオ
- 融和路線シナリオ
トランプが再度「モディとの友情」を前面に出し、関税問題を交渉材料に利用。インドは象徴的な譲歩を見せ、再び“トランプ・モディの蜜月”が復活。 - 対立激化シナリオ
米国がロシア原油輸入や中国接近を問題視し続け、追加関税や制裁圧力を発動。インドは「内政干渉」と反発し、米印関係が冷え込む。 - 現状維持シナリオ
双方が強硬発言を繰り返しつつも、軍事・技術協力の利害関係から完全な決裂は避け、緊張と融和を繰り返す“曖昧な関係”を維持。
長期的な読み
米印関係は今後10年で「最重要な二国間関係」のひとつになる可能性があります。
理由は以下の通りです。
・中国台頭を前に、米国はインドの人口・市場・軍事力を不可欠と見ている。
・インドは「どちらにも完全には組みしない」ことで最も利益を得られる立場を維持できる。
・よって、緊張と協力を繰り返す“複雑な蜜月”が続くと予測されます。
結論として、トランプとモディの関係は「友情」という言葉以上に、“力と利益”で動く関係です。
真の焦点は「誰がインド市場と地政学的カードを握るか」にあります。
読者にとって重要なのは、表面的な友好発言よりも、関税・エネルギー・軍事協力の動向を追うこと。
ここにこそ米印関係の未来を読むカギが隠されています。