米印関係:50%関税の壁と「友好」の演出
アメリカのトランプ大統領がインド製品に最大50%の関税を課したのは記憶に新しい。
理由は「ロシア産原油取引」を盾にしたものだったが、実際には地政学的圧力に過ぎなかった。
インドは農業・畜産・デイリー・GM作物を巡る交渉で一歩も譲らず、アメリカの「市場開放」要求に対しては国内農家や漁業の利益を守る姿勢を貫いてきた。
ところが9月に入り、トランプはSNSで「モディ首相は素晴らしい友人だ。通商問題を解決するため直接話し合う」と発言。
モディ首相も「アメリカは自然なパートナーだ」と呼応した。
互いに前向きなメッセージを送り合うことで、市場には「関税緩和の可能性」が広がった。
実際には、包括的な自由貿易協定(FTA)が一気に成立する見込みは薄い。
過去の韓国や日本、EUの事例からも分かるように、アメリカとの交渉は「小出しの譲歩と部分的な緩和」の積み重ねにしかならない。
だが、インド市場がアメリカにとって無視できない存在であることは確かであり、段階的に摩擦が解消される可能性は高まっている。
投資家にとって重要なのは、関税影響の大きいITサービス、オート部品、テキスタイル、ケミカル、宝飾などの輸出産業。
短期的には「期待先行」で株価が戻るが、実際に関税撤廃がどこまで進むかは、細部の条文を待つ必要がある。
インドの戦略:多極化世界での「距離感」
アメリカとの関係改善が進む一方、インドは中国・ロシアとも距離を取りつつ連携を深める。
SCOやBRICSなどの場で存在感を強める姿勢は、「多極化世界」の中で自律性を保つためだ。
インドは「どの同盟にも属さず、必要に応じて誰とでも組む」スタンスを維持し、これが最大の交渉力となっている。
国際秩序が揺らぐ今、アメリカにとっても中国にとっても「インド市場を敵に回せない」という現実がある。
インドはこの優位を背景に、時間をかけて有利な条件を引き出そうとしている。
ネパールの不安定化:スシラ・カルキの台頭
近隣のネパールでは、首都カトマンズのトリブバン国際空港が抗議デモで一時閉鎖されたが、9月10日に再開。
しかし政局は混乱のままだ。
若者主導の抗議運動が勢いを増し、初の女性最高裁長官だったスシラ・カルキを暫定首相候補に推す声が上がっている。
17年で14回も政権が交代してきたネパールの「政治疲れ」が背景にあり、SNSを通じた世論拡散が政権転覆の加速装置となっている。
フランスの炎上:マクロン政権への挑戦
フランスでは、マクロン政権に対する抗議デモが急拡大。
「Block Everything(全てを止めろ)」運動が全国で広がり、治安部隊は8万人以上を動員。
パリだけで200人以上が拘束された。
背景には、GDP比114%に達した政府債務、440億ユーロ規模の歳出削減案、議会のねじれ構造などがある。
これらは単なる「政権不満」ではなく、欧州の民主主義国でも生活不安と格差拡大が政治の土台を揺るがしていることを示す。
フランスの事例は、欧州経済全体にリスクプレミアムを上乗せする要因となり、ラグジュアリー、自動車、銀行株などに波及し得る。
ポーランド:ロシアの無人機を撃墜
ウクライナ戦争の余波として、ポーランド空軍が領空を侵犯したイラン製シャヘド無人機を撃墜した。
F-16によるパトロール強化も始まり、戦火が東欧へ拡大するリスクが再認識されている。
投資家は「第三次大戦」という言葉が見出しに躍るだけで市場が揺れることを意識すべきだ。
インド株:6日連続の上昇
国内市場は堅調だ。
9月10日の取引でNIFTYは24,973(+104)、SENSEXは81,425(+323)、Bank NIFTYは54,536(+320)と6日続伸。
特筆すべきは、中小型株の上昇も伴った「広がりのある強さ」だ。
要因は3つ。
- 外国人投資家(FII)が久々に現物買いに転じたこと。
- 米印関係改善のニュースがセンチメントを押し上げたこと。
- テクニカル的に25,000ポイント突破が意識されたこと。
セクターを見ると、これまで強かったFMCGやオートなど内需株に利確が入り、代わってIT、オート部品、化学、宝飾、電力株など「出遅れ組」が買われる展開。
市場にローテーションが起きている。
医療AIのリスク:過信の代償
話題は市場から少し外れるが、AI医療にも触れておきたい。
最新研究では、AI診断は一般的な疾患には有効性を示す一方、複雑症例では精度が大きく低下。
さらに「AIに依存した後、医師の技能が落ちる」いわゆるデスキリング現象も報告されている。
誤診や誤投薬リスクも無視できず、AIは「賢いセカンドオピニオン」であって、医師の代替ではない。
投資の観点から見れば、医療AIは成長分野だが「安全性とガバナンス」を組み込める企業こそが長期的に評価される。
投資家へのメッセージ
今日のニュースが示すのは、「市場は声の大きさで動くが、持続させるのはキャッシュフロー」ということだ。
トランプの発言やマクロンへの抗議は短期的に相場を揺らす。
しかし投資家が見るべきは
・米印交渉の条文化と対象品目
・欧州債務問題の持続性
・インドのスキリングと生産性向上
・AI導入の制度設計
これらの「ディテール」である。
ヘッドラインに踊らず、事実と条文、数字の裏を読むことが、今後の投資で生き残るための最大の武器になるだろう。