テスラの株価が再び市場の注目を浴びている。
2025年9月に入り、重要なテクニカル水準を突破し、投資家心理は一気に強気へと傾いた。
だが、単なる金利低下や短期的な相場要因では説明できない“根本的な変化”が起きている。
本稿では、イーロン・マスクの復帰と取締役会の姿勢、ユーザー体験を変える最新アップデート、そしてAIによる将来収益構造の再定義を整理し、テクニカルとファンダメンタルの両面から分析する。
イーロン・マスク復帰と取締役会の明確なメッセージ
テスラ取締役会は、文書の中で次のように言い切った。
「この重要な変革期にテスラを率いられるのはイーロン・マスク以外にいない」。
これは単なるレトリックではない。
マスクの経営権強化を意識した報酬パッケージが再承認され、取締役会は“創業者支配”の再構築に踏み切った。
報酬総額は「1兆ドル」と強調されることもあるが、これはすべての業績条件を達成した場合の理論値であり、現実的には成果連動のインセンティブだ。
一方で、マスクの警備費用は年間約240万ドル(=月換算20万ドル程度)。
株主の中には「報酬が巨額なら警備も強化すべき」との声も上がる。
ガバナンスの緊張感と創業者への依存――
この二つのバランスが再び投資家の議論を呼んでいる。
顧客体験を変える“低電力モード”の実装
今回の株価上昇と同時に話題となったのが、「Low Power Mode(低電力モード)」の導入だ。
これまで多くのユーザーは、空港に長期間駐車するとバッテリーが想定以上に消耗する問題に悩まされてきた。
セントリーモードやアクセサリー電源維持といった常時稼働機能が“吸血鬼のように電力を奪う”ためだ。
新モードはこの不満を一括解消する。
- セントリー、サモン待機、アクセサリー電源維持、キャンプ/気候維持、キャビンオーバーヒート防止などをまとめて停止
- バッテリー残量が一定以下(初期は20%)になると自動発動
- 長期駐車や旅行中に“放電ゼロに怯える”心配が大幅に軽減
これは単なる機能改善に見えるかもしれない。
しかし、ユーザー体験を改善する“小さな工夫”がブランドロイヤルティを決定づける。
FSDやロボタクシーの壮大な物語と同時に、日常のストレスを減らす即効性のある改善は、テスラが愛され続ける理由でもある。
テクニカル分析:347突破で次の焦点は414
株価チャートでは、長くレジスタンスとなっていた347ドルを明確に突破。
市場は次のターゲットとして414ドル前後(2021年・2024年の高値帯)を意識している。
- 上シナリオ:347をサポートに押し目買い → 414を試す動き
- レンジシナリオ:347〜414での持ち合い形成
- 下シナリオ:347割れで調整加速
高ボラティリティ銘柄であることを忘れてはならない。
損切り水準を事前に設定することが必須だ。
ファンダメンタル:自動車企業か、それともAI企業か?
ウォール街の視点では、テスラは現在PER 200超、PEG 5超と割高に見える。
だが評価軸によって景色は一変する。
- 自動車メーカー視点
価格競争や原材料コストの影響を受けやすく、PERは抑制されるべき。 - AI/サービス企業視点
FSDサブスクリプション、ロボタクシー運賃、Optimus(人型ロボット)のB2B販売。
高粗利・ストック型収益が伸びれば、ソフトウェア企業並みの倍率で評価される可能性がある。
もしEPS成長が平均80%で4年間継続し、PEGが2.5〜3で落ち着けば、現在の“見かけ上の割高”は短期間で薄まる。
これはウォール街が織り込んでいない“大局”だ。
マスター・プラン4とAI“工場”化
ブルームバーグなどは「マスター・プランの内容が薄い」と批判する。
しかし、テスラが描く未来像は明快だ。
- ロボタクシー
法規制と保険制度をクリアしつつ、地域ごとに段階的解禁 - Optimus
センサー、関節、駆動系、電池の供給網を安定させ、大量生産でコストダウン - データOS
車・エネルギー・ロボを貫く共通OSを構築し、データ学習の複利を発揮
テスラは“車を売る会社”ではなく、「移動×エネルギー×AIの統合OS」企業へ進化しつつある。
ここをどう評価するかで投資家の分岐は大きく変わる。
マクロ環境:金利低下は強い追い風
米国では長短金利差が縮小し、利下げ期待が強まっている。
これにより
- 成長株の割引率低下 → バリュエーション押し上げ
- 販売金融・ローン買い取りの資金コスト低下 → 需要刺激とマージン確保
という二重の追い風がテスラに吹いている。
さらに、EV税額控除(クリーンビークレジット)が9月末で終了するため、駆け込み需要も株価にポジティブに作用する可能性がある。
リスク要因も忘れるな
- 規制と安全性
FSDやロボタクシーは実用化の前に“法と保険”の壁を突破する必要あり - 中国メーカーとの競争
BYDなどの低価格EV攻勢が利益率を圧迫 - 供給網ショック
電池や半導体、精密部品の一部がボトルネック化すれば量産に遅延リスク - 誇張された期待
アプリが公開されても、全地域で即利用できるわけではない点に注意
結論:テスラは“株価”ではなく“速度”で評価すべき
今回の急騰は
- イーロン・マスクのリーダーシップ復帰
- ユーザー体験を一変させる低電力モード実装
- AI/ロボタクシー/Optimusという新しい収益源の物語
この三つが重なったことで起きた。
投資家が注視すべきは「今のPERが高いか低いか」ではなく、実装速度だ。
FSDのアップデート頻度、ロボタクシーの展開スピード、Optimusの量産歩留まり。
これらが早まれば早まるほど、テスラの“未来”は株価に織り込まれていく。
347突破→414挑戦という短期テクニカルの攻防と、移動×AI統合OS企業への進化という長期テーマ。
その両輪をどう評価するかが、投資家に問われている。
📌 筆者の視点
テスラの本質は“車の会社”から“学習する製造システム”への転換にある。
もしAI工場という構想が実現すれば、テスラは単なる自動車銘柄ではなく、「物理世界のOS」として再評価されるだろう。
ウォール街のモデルが追いつかないうちは、そこにこそ投資機会が潜んでいる。
👉 次にあなたが気になるのは、テスラが本当にAI収益を四半期ベースで積み上げ始めるタイミングかもしれない。
その時、市場は“車の会社”という古い物差しを捨て去ることになる。