世界の借金324兆ドル時代――人類は“債務OS”とどう共存するのか

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現実感を失う数字

世界の総債務は324兆ドル(2025年第1四半期時点)に達した。
これは政府・企業・家計のすべてを合算した数字で、世界GDPの約3.5倍に相当する。
あまりに大きすぎて現実感を失うが、これは単なる異常値ではなく、現代経済の標準動作(OS)そのものだ。

この記事では、この“借金OS”がどのように生まれ、誰が支え、どのような未来をもたらすのかを解説する。


借金とは何か:3つのカテゴリー

債務は大きく分けて以下の3種類。

  • 公的債務:政府が発行する国債や借入金
  • 企業債務:法人の社債や銀行借入
  • 家計債務:住宅ローン、教育ローン、クレジットカード等

日常のクレジットカード請求書から巨額の国債まで、あらゆる「返済の約束」を合計したものがグローバル債務だ。


債務拡大の歴史:金からフィアットへ

第二次世界大戦後の世界はブレトンウッズ体制で動いた。
ドルは金に、各国通貨はドルにペッグされ、自然な上限が存在した。

だが1971年、ニクソン・ショックで金本位が終了
フィアット通貨体制に移行した瞬間、政府は自国通貨で無制限に国債を発行できるようになり、債務の歯止めは「金の保有量」から「市場の信認」へと変わった。

その後

  • 1970年代:オイルショック
  • 1980年代:貯蓄貸付危機
  • 1990年代:アジア通貨危機
  • 2008年:世界金融危機
  • 2020年:パンデミック

あらゆる危機のたびに「非常時の財政出動」が繰り返され、債務残高は一段階ずつ高止まりした。


主要国の債務構造

米国

  • 政府債務:約36兆ドル(GDP比120%)
  • 家計債務:18兆ドル超(住宅・教育・カード等)
  • 企業債務:14兆ドル

米国債の約7割は国内勢(年金・投信・銀行・FRB)が保有し、残り2〜3割を海外(日本、中国、英国等)が持つ。
さらに2020年代に入り、ステーブルコイン発行体(USDT・USDC等)が短期国債の有力な買い手として登場した点が特徴的だ。

中国

  • 政府債務:約18兆ドル規模(GDP比93%程度)
    ただし地方政府や国有企業、オフバランスの借入が多く、実態はさらに膨らむ。

日本

  • 政府債務:GDP比235%前後(世界最悪水準)
  • 日銀が国債の過半数を保有
  • 家計債務:GDP比65%前後
  • 企業債務:GDP比110%超

「国内保有」と「自国通貨建て」という特徴が持続性を支えている。

欧州

  • フランス
    政府債務約3.6兆ドル(GDP比114%)、家計60%、企業75%。1970年代以降ほぼ常時赤字。
  • イタリア
    政府債務約3.3兆ドル(GDP比138%)、ただし家計・企業の債務比率は低い。
  • ドイツ
    GDP比62%と財政規律を保つ。
  • 英国
    GDP比96%前後、近年100%を超えた局面もある。

誰が借金を持っているのか

先進国では国債の大部分を国内の金融機関・年金・中央銀行が保有。
例:日本では日銀が50%以上を持つ。

一方、新興国は外貨建て・海外保有が多く、金利上昇やドル高局面で危機に陥りやすい。


借金のメカニズム:返済しないで借り換える

国債には満期があるが、多くの政府は満期到来時に新規国債で借り換える(ロールオーバー)
つまり「借金を返済する」のではなく、「借金を借金で繋ぐ」構造だ。

さらに、金融機関に国債保有を義務付ける金融抑圧が行われることで、低利回りでも需要が維持され、実質的に債務を目減りさせる仕組みが働いている。


債務が膨らむ理由:構造的な重荷

  1. 高齢化
    年金・医療費が膨張(米国ではGDP比11%→2055年14%超へ)。
  2. インフラ投資不足
    米国のインフラ格付けはC。欧米は老朽化対応に迫られる。
  3. 産業政策と技術競争
    CHIPS法や再エネ投資、AI競争は巨額の公的支出を必要とする。
  4. 地政学リスク
    防衛費の恒常的増加。
  5. 金利上昇
    ゼロ金利が終わり、利払い比率が急拡大(米国ではGDP比3%→2055年5%以上へ)。

サステナビリティの条件

債務持続性を測る鍵は3つ。

  1. g−r(名目成長率−名目金利)
    成長率が金利を上回れば債務比率は自然に縮小。
  2. プライマリーバランス
    利払い前の収支が黒字なら耐性が高まる。
  3. 満期構成
    長期国債比率が高いほど金利ショックを平準化できる。

よくある誤解

  • 「国の借金=家計の借金」ではない
    政府には通貨発行権と課税権があり、家計とは構造が異なる。
  • 「総額が多い=危険」ではない
    外貨建て比率、海外保有比率、金利水準の方が重要。
  • 「インフレで解決できる」も短絡的
    行き過ぎたインフレは信用を失い、逆に金利を押し上げる。

あなたにできること:実務的チェックリスト

  • 負債の固定化
    住宅ローンは可能なら固定金利を選び、変動なら返済余力を確保。
  • 実質金利を見る
    名目ではなく、インフレ控除後の金利で資産・負債を評価。
  • 期間分散
    資産も負債もラダー型で平準化。
  • 通貨分散
    収入と資産の通貨ミスマッチを最小化。
  • 制度変更に敏感になる
    税制、年金、金融規制は「静かなゲームチェンジ」として訪れる。

結論:借金OSは止まらない

世界は「借金が多いから危機」なのではなく、借金をOSとして設計して動いている
完全返済はあり得ず、各国は成長・インフレ・金融抑圧を組み合わせながら持続性を調整していく。

投資家や家計にできるのは、どのシナリオでも致命傷を負わない設計をすることだ。
そしてもしAIやロボティクスが本当に生産性を引き上げれば、最良の出口は“成長による希釈”となる。


あなたのポートフォリオや家計は、金利上昇・インフレ・制度変更のいずれが来ても「壊れない設計」になっているだろうか?
借金OSの中で生きる以上、それが最も重要なリスク管理となる。

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