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数字の熱狂と冷静な現実
2025年3月末までに616万台超の電動車(EV)がインドで登録されました。
ワールドEVデーを迎えるいま、ニュースでは「爆発的普及」と報じられますが、冷静に数字を見ると、まだ総販売台数の7.6%程度に過ぎません。
政府は2030年までに新車販売の30%をEV化する目標を掲げていますが、残りわずか5年で22ポイント近い伸びを達成できるのか。
これは極めて大きな挑戦です。
本記事では、最新データを踏まえながら「販売の現実」「普及を阻むボトルネック」「突破口となるセグメント」「政策と産業の次の一手」を分かりやすく整理します。
現状の数字:販売とシェアの姿📊
- 累計販売台数(2025年3月末時点):6,165,964台
- 2024年度の新車総販売:2,620万台
- EV販売台数:180万台(シェア約7.6%)
- 2030年目標:シェア30%
→ 5年で+22ポイントのジャンプが必要。
州別ではウッタル・プラデーシュ、マハーラーシュトラ、カルナータカ、タミル・ナードゥがトップクラス。
さらに2025年にはビハールがデリーを追い抜くなど、新興市場の追い上げも見えています。
セグメント別の普及状況🛵🚗🚌🚛
二輪(2W)
- Ola Electric、TVS、Bajajの3社で約70%のシェア。
- 都市通勤・短距離利用でコスト優位が出やすく、導入最前線。
三輪(3W)
- Mahindra Last Mile Mobility、Bajaj、YC Electricが上位。
- ラストマイル配送や客輸送にEVが定着。拠点充電がしやすい環境。
乗用車(4W)
- FY2025販売は前年比+11〜15%成長。
- Tata Motors:シェア53%、MG Motor:28%と寡占傾向。
- 500〜600km走行可能なモデルが続々登場。
- Tata Harrier EV:航続538km、価格約₹21.5L〜
- Mahindra XUV.e9:542〜656km、価格₹22L〜
- BYD Seal EV:510〜650km、価格₹41〜53L
- Kia EV6:663km、約₹65.9L
- Tesla Model Y:500〜622km、約₹60L
- MG Cyberster(番組では“Select EV”と紹介):580km、₹72.5〜75L
バス(公共交通)
- 固定ルート×拠点充電でEV化が容易。
- 低TCO(総保有コスト)で自治体導入が進めやすく、「見える電動化」効果が大きい。
トラック(物流)
- かつて最難関とされたが、定期ルート輸送ではレンジ不安が小さい。
- 政府はPM e-DRIVEで1台27〜96万ルピー補助を実施。
- 2025年8月にはEVトラック販売が前年同月比で倍増。
- 今後は100kmごとの大型充電ハブ構想が進行中。
普及を阻む5つのボトルネック⚠️
- 充電インフラ不足
都市部集中で、長距離は「点」の状態。 - 車両価格の高さ
初期価格はICEより2〜3割高。 - 充電時間の長さ
15〜30分の急速でも心理的障壁大。 - 残価・中古市場の不透明さ
バッテリー診断標準化が未整備。 - 情報不足と不安
安全性・保険・リセール・補助制度が断片的。
政策の動きと市場シグナル🏛️
- インセンティブ規模
- FAME I:₹895cr(2015–2019)
- FAME II:₹11,500cr(2019–2024)
- PM e-DRIVE:₹10,900cr(2024–2026)
- 税制(GST)
- EV:5%据え置き
- ICE:28%から18%に減税(2025年9月発効)
→ 相対優位が縮小し、EV普及の逆風要因に。
- 道路優遇
- ムンバイのアタル・セトゥ(MTHL)橋はEV通行料免除(2025年8月〜)。
- 標準化
- 充電規格・バッテリー診断の統一が進行。
レンジ不安を解消する「設計発想」🧭
- 個人利用:自宅・職場の普通充電+週末の急速充電。
- 配送業務:昼休憩・交代時に急速充電を組み込み。
- 都市間ドライブ:100kmごとのハブ+20分休憩を計画に。
- 幹線輸送:出発地・中継地・到着地の充電を前提設計。
→ “偶発充電”ではなく“計画充電”で不安は大幅に軽減。
普及を加速するカギ🔑
- フリート先導
- 公共交通・官公庁車両・法人フリートを優先電動化。
- 「街にEVが見える」ことで市民の安心感を創出。
- 金融商品
- 残価保証リース・低金利ローンで「月額TCO」をICEより安く。
- 中古市場の整備
- バッテリー診断・保証付きで再販価値を可視化。
- アウェアネス強化
- 「Switch Delhi」「Shoonyaキャンペーン」など認知施策を全国展開。
フリートが“点火装置”、個人が“主燃焼”
インドのEV普及は、これまで個人購買に偏重してきました。
しかし実際には、公共交通・官公庁・法人フリートを起点に「見える電動化」を進めることが最も効果的です。
制度+金融+インフラが束ねられれば、街の景色は一変し、個人の心理的障壁は自然に崩れます。
特に幹線物流トラックのEV化は、充電インフラ投資を正当化し、同時に一般ドライバーの「ロングドライブ不安」もまとめて解消します。
2030年の30%達成は険しい道ですが、フリートを先に燃やし、個人を後から燃やすという順番なら現実的なシナリオとなるでしょう。
まとめ:今日からできる視点転換
- 自治体・法人 → 公共交通とフリートのEV化を最優先に。
- 個人 → 月額TCOでICEと比較、補助・優遇まで含めて判断。
- 政策 → 幹線100km充電ハブを“国策”として急展開。
- 金融・保険 → 残価保証・延長保証で不安を削減。
- 社会 → EVを「見せる・触れる・数値化する」体験で意識転換。
電動化は理念ではなく運用の問題。点火役はフリート、燃焼役は個人。
この順番がインドEVの未来を切り開きます。