FOMC利下げでインド株はどう動く?関税リスクとの綱引きを徹底分析

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FOMCの決定と世界の注目

2025年9月16日から17日にかけて開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)は、市場予想通り0.25%(25bp)の利下げを実施し、フェデラルファンド金利は4.00〜4.25%のレンジに引き下げられました。
これは昨年12月以来の利下げであり、世界の投資家が固唾を飲んで見守っていたイベントです。

パウエル議長は会見で「0.5%の大幅利下げを求める強い声はなかった」と明言し、あくまで段階的な調整であることを強調しました。
つまり、市場が過剰に期待していた“景気刺激の大盤振る舞い”ではなく、慎重な軟着陸シナリオが示されたのです。

一方で、今回の利下げは米国だけの話では終わりません。
特に新興国市場、そしてインド株式市場には直接的な影響が及びます。
では、インド市場にとって利下げは追い風になるのか、それとも別のリスクが重石となるのか。

この記事では3つのシナリオとセクター別の影響、さらに米印関税問題という大きなリスク要因を徹底的に整理していきます。


シナリオ分析:3つの分岐点

1. Fedが25bp利下げ(今回の決定)

市場がもっとも織り込んでいたシナリオです。
CME FedWatchツールでは直前に94%以上が25bp利下げを予想していました。
結果としてサプライズは小さく、インド市場も極端な変動は避けられそうです。

  • 株式市場
    輸出依存度の高いITや医薬セクターが恩恵を受けやすい。米景気が急減速しない限り、北米からの受注は安定感を増すでしょう。
  • 債券市場
    インド国債の利回りスプレッドが改善し、海外投資家にとって魅力が高まる構図。
  • 為替市場
    ドル高が一服する可能性があり、ルピーの安定が期待されます。

2. Fedが50bp利下げ(実現せず)

もし実際に大幅利下げが実施されていれば、短期的には「リスクオン」の強い流れが新興国市場を押し上げたでしょう。
世界的な資金流入が加速し、インド株もラリーを演じた可能性があります。

ただし、その裏でコモディティ価格の反発→インフレ懸念再燃という副作用もあり、中期的には不安定要因になり得ました。

3. Fedが利下げを見送る(回避)

市場が最も恐れていたシナリオです。
もし据え置かれていれば、直後にドル高と米金利上昇が進み、インド株はボラティリティにさらされたはずです。

特に金融や不動産といった金利敏感セクターは打撃を受け、FPI(外国人投資家)の資金流出も加速したでしょう。


7月31日の教訓:利下げ“なし”の影響

振り返れば、7月31日の前回FOMCは利下げ見送りでした。
その結果、インドの主要株価指数は反応し

  • Sensex:-296ポイントの81,185
  • Nifty50:24,768まで下落

と赤字で取引を終えています。

当時は利下げ据え置きに加え、トランプ大統領が対印関税25%を発表したことで輸出関連株が売られ、二重のショックとなりました。


関税リスクという“もう一つの現実”

実はインド市場にとって、今回の利下げ以上に重要な外部要因があります。
それが米国による対印関税強化です。
7月末に発表された25%関税は、8月末に最大50%へと引き上げられました。

  • 打撃を受けやすい分野
    繊維、宝飾、自動車部品など対米輸出比率の高い産業
  • 限定的な回避
    スマートフォンなど一部製品は除外の対象となる見込みで、銘柄選別が重要になります

つまり、FOMCの利下げで流入する資金と、関税で失われる輸出競争力が綱引きをする状態にあるのです。


セクター別インパクト

  • ITサービス
    ドル安一服と世界流動性改善の恩恵。特に北米収益比率が高い企業は中立〜プラス。
  • 金融・不動産
    インド国内の金利低下期待が高まり、銀行・NBFCに追い風。ただしRBIの判断次第。
  • 医薬・ヘルスケア
    米国市場との結びつきが強く、ディフェンシブ性から資金が集まりやすい。
  • 資本財・工業
    米景気次第。内需インフラに依存する企業の方がリスクヘッジ力が強い。
  • 繊維・宝飾・一部耐久財
    関税50%が直撃。短期的に売上・利益率の悪化が避けられない。

今後の注目イベント:RBIの判断

次に焦点となるのは、9月29日〜10月1日に開催されるインド準備銀行(RBI)の金融政策委員会(MPC)です。

米国の利下げが背中を押す格好となり、ハト派寄りのスタンスに傾く可能性が高まっています。
ただし、インドは国内インフレが粘着質であり、安易に追随利下げには踏み切らない可能性も高いと考えられます。


投資家への戦略的提言

  1. 短期イベントドリブンに流されない
    25bpは織り込み済み。むしろ流動性と出来高を観察すべき局面。
  2. 為替・金利を同時監視
    ドルインデックスと米金利の動向がIT・医薬株に直結。
  3. 関税影響度を企業ごとに精査
    売上比率、HSコード、価格転嫁の余地を確認。
  4. RBI前にポジション整理
    利下げ観測で短期ラリーが出ても、インフレ指標次第で修正リスク。
  5. 内需依存セクターへのシフト
    関税リスクを回避し、インフラ・金融・消費循環系に注目。

まとめ:二重のシナリオを読み切れ

今回のFOMCは「25bp利下げ」という想定内の展開でした。
これにより、インド市場は極端な揺さぶりを受けず、むしろ米金利低下による資金流入期待というプラス要因を得た格好です。
しかし同時に、米国の対印関税50%という強烈なマイナス要因が存在します。
結論として、インド株の方向性は「利下げの追い風」対「関税の逆風」の綱引きになるでしょう。

筆者の見立てとしては、短期的には世界流動性が改善するためIT・医薬など外需大型株がリーダーシップを発揮しやすい一方、中期的には関税問題が解決されない限り、内需セクターの方が持続的な成長余地を示すと考えます。
投資家はFOMCの結果に一喜一憂するのではなく、米印関係とRBIの判断を並行して追うことが求められる局面です。

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