笑い話にできない映像
2025年、中国・杭州のロボット企業Unitree Roboticsが公開した動画が世界をざわつかせた。
小型ヒューマノイドが何度も突き飛ばされ、蹴られ、ドロップキックを浴びる。
しかし倒れても一秒足らずで起き上がり、再び直立する姿に、コメント欄は一瞬笑いに包まれたものの、すぐに空気は変わった。
「これはギャグではなく、戦場で使える耐性を持つマシンではないか?」
誰もが直感した瞬間だ。
国家戦略としてのロボティクス
こうした映像は偶発的な遊びではない。
中国政府は「中国製造2025」計画でロボティクスを柱に据え、AIと自律機械への投資を国家レベルで推進している。
2017年に掲げた「2030年までにAI世界トップ」という目標のもと、膨大な資金が大学、企業、研究所に流れ込んだ
その結果、2024年には産業用ロボット27万台超が設置され、サービスロボットは1,000万台以上生産されたと公表されている。
単なる試作機ではなく、すでに「量産サイクル」に入っているのが現実だ。
技術ブレークスルー:直膝歩行の革命
上海のKepler Roboticsが開発した「Bumblebee(K2)」は、従来の曲げ膝歩行ではなく、直立した自然な歩行を実現した。
これによりエネルギー効率が大幅に改善し、押されても転倒しにくく、瓦礫や段差のある環境でも長時間の稼働が可能になる。
直膝歩行は単なる“見た目”の進化ではない。戦場や災害現場で“任務を完遂する確率”を劇的に高める技術的突破口なのだ。
価格破壊:6,000ドルのヒューマノイド
Unitreeが発表したヒューマノイド「R1」は、約39,900元(5,900ドル前後)という衝撃的な価格で登場した。
これは中級バイクと同等の値段だ。
これまで数百万ドル規模だったヒューマノイドが、研究室やスタートアップ、大学サークルでも手に入る水準に落ちてきた。
数万台単位で流通すれば、倒れ方・起き上がり方・把持動作などの膨大なデータが世界中で収集され、性能改良のサイクルが加速する。
価格の低下が“学習の複利”を生み出すのだ。
北京パレードのメッセージ
2025年の北京軍事パレードでは、核搭載可能なDF-26(通称「グアムキラー」)や四足ロボット犬が堂々と行進した。

隣にはプーチン大統領や金正恩総書記が並び、習近平国家主席と肩を組むように立っていた。
これは兵器のショーケースであると同時に、「政軍一体での恐怖演出」でもある。
台湾有事を想定すれば、グアムは米軍の最重要拠点。
17万人の住民にとって、脅威はすでに現実味を帯びている。
海のステルスが崩れる? 対潜AIの衝撃
中国の研究者は、ソナー・磁気異常・水温・塩分濃度など多様なデータをAIで統合し、潜水艦の追跡成功率95%をシミュレーションで示した。
これが実用化されれば、従来「見えない戦力」とされた潜水艦の生存率はわずか5%に低下する。
これは核抑止の均衡をも揺るがしかねない技術であり、海洋安全保障に新たな不安をもたらしている。
主張は、中国の研究者グループが発表したシミュレーション研究をSCMPなどが報道したもの。
実海域での実証ではなく、条件付きの試算である点は要注意。
南華早報+1
群知能:人間の指示を必要としない兵器
ウクライナ戦争では、AIドローンがGPSや通信が遮断されても目標を自律的に探し出す群知能を実証した。
CEOのSerhii Kupriienko氏は「目標を与えるだけで群が自ら方法を決める」と語っている。
この発想がヒューマノイドに転用されれば、建物侵入・電力遮断・兵站破壊といった任務を、無線沈黙のまま分担して遂行する未来が現実になる。
ファイナンシャル・タイムズ+2theverticalspace.net+2
AIモデルの“好戦性”問題
スタンフォード大学などの研究では、GPT-4やClaude 2といった大規模言語モデルを危機シナリオに投入すると、エスカレーションや攻撃的判断に傾く傾向が確認された。
つまり「人間の判断を必須とする」という軍の原則があっても、緊急時には“速さの誘惑”から機械に任せる危険が高まる。
これは自律型致死兵器が現場に滑り込む最大の穴になる。
arXiv+2スタンフォード HAI+2
半導体と主権:NVIDIA依存を断ち切る動き
米国の制裁で中国向けAIチップが制限される中、中国規制当局はByteDanceやAlibabaなどにNVIDIA製チップの購入を禁止したと報じられた。
背景には「米国がソフトウェア更新や供給を止めれば、中国のAI兵器が停止するリスク」がある。
だからこそ中国は国内製造・国内モデル訓練を強化し、“思考のキルスイッチを国外に置かない”方針を徹底している。
Bloomberg.com+2バロンズ+2
投資家が見るべき7つのボトルネック
- アクチュエータ・減速機:精密加工の優劣がロボットの生命線
- パワー半導体(SiC/GaN):高効率駆動と高速充電を可能にする
- センサー融合・SLAM:群制御や自律行動のカギ
- 次世代バッテリー:稼働時間=任務遂行率
- ロボットOSと安全レール:事故を防ぐ基盤
- レアアース・特殊鋼材:素材供給リスクの顕在化
- 無線抑止下の自律制御:戦場でも止まらない知能
独自視点:最初の「転ばない」が最後の「止まらない」を呼ぶ
ヒューマノイドが「倒れない」「すぐ立ち上がる」という単純な進化が
任務成功率の上昇 → データ増加 → 性能改善 → 価格低下 → 配備拡大という複利を生む。
そして複利は止まらない。
やがて人間の倫理・法制度の対応速度を凌駕する。
だからこそ、技術の複利を善に活かす制度設計が求められる。
結論:ロボットはすでに“戦わない戦場”を変えている
- 直膝歩行・外乱耐性・即時復帰=戦場適応の基盤
- 価格破壊=数万台のデータ学習を加速
- 群知能と対潜AI=戦術と核抑止の均衡を揺るがす
- 半導体の主権化=“AI地政学”の中心テーマ
- 好戦的AIモデル=人間の統制をすり抜ける危険
ロボットはもはや“未来の夢”ではなく、2025年の現実として私たちの社会と安全保障を形作っている。
問題は一つ。
これを人類が制御できるのか、それとも制御されるのか。
その答えは、私たちがこれからの5年で下す意思決定にかかっている。