なぜ“計算資源”から始めるのか
生成AIの拡張は、最終的に電力×データセンター×半導体の物理インフラに突き当たる。
IEAの最新レポートは、データセンターの電力消費が2030年までにほぼ倍増し945TWh規模へ(年平均+15%ペース)と見積もる。
AI最適化型DCの電力は4倍以上に膨らむ可能性が指摘され、需要の“歪み”がまず半導体サプライチェーンに流れ込む構造だ。
IEA+1
一方、産業側の“答え”もはっきりしている。
NVIDIAのデータセンター関連は黒井の主役で、2025年7月期(FY26/Q2)時点で四半期売上$46.7B、うちBlackwell系データセンターが前期比+17%と伸長。
AI需要が“計算資源”を直接押し上げていることが決算で可視化されている。
NVIDIA Newsroom
半導体市場全体でも追い風が吹き、WSTSの2025年見通しは+11.2%→+15.4%へ上方修正(約$728B)。
ロジックとメモリが二枚看板で、その根っこにAI・クラウドの設備投資がある。
WSTS+1
要するに——
AIそのものに賭ける前に、AIを動かす“筋肉と血流(GPU/半導体)”に賭けるのが投資として合理的、ということ。
放置すると何が起きる?
- 勝者偏重に飲み込まれる
AIブームの果実は“上位数社”に集中しやすい。
インデックスの上位寄与が効く局面で個別を外すと、指数にも届かない。
半導体ETFはここを“面で”押さえられる設計だ(上位集中型/均等重み/スマートベータの選び分けで、偏りやすさを調律できる)。 - インフラ制約の二階建てリスク
AI×DCの電力制約は国・地域ごとの規制/系統事情に左右され、ラストワンマイルで建設遅延も起こる。
需要の勢いに対し供給の立ち上がりは常に遅いため、部材・装置・先端プロセスは高稼働→ボトルネック化しやすい。
英国の系統でもDC接続の逼迫対応を模索する動きが出ている
。ザ・タイムズ - 地政・規制のショック
米国の先端半導体・AI拡散規制(2022→2023→2024強化、2025年1月の“AI Diffusion Rule”議会報告)は続く。
中国側の対抗的な調達・代替推進も見られ、供給網の分断は継続前提で読む必要がある。
bis.gov+1 - プロダクトの“使い方”リスク
レバレッジ/インバースETFを“なんとなく長期”で持つと日次リセットの複利誤差で期待値を毀損しやすい。
FINRA/SECは長期保有に不向きと明確に警告する。
finra.org+1
“ETFで計算資源を面で取る”の設計思想
- 王道コアで“上位の推進力”を素直に取る
時価総額加重のSOXX(NYSE/ICE半導体)やSMH(MVIS 25)/ SOXQ(PHLX)は、AIドライバーの寄与をダイレクトに受け取る設計。
上位の決算や供給計画のニュースが指数リターンに強く反映されるのが利点だ。 - 均等重み/スマートベータで“裾野も拾う”
XSD(S&P Select Industryの修正イコールウェイト)なら、装置・EDA・検査・素材まで構造的に広く。
PSI/FTXL/CHPSのスマートベータ群は、モメンタム/品質/バリューなどの“賢いβ”でサイクルの凹凸を拾いに行くスタイル。 - 口座・通貨・税制の“現実”で仕上げる
2243(東証・円建て)でSOXをそのまま円で、346Aで半導体+装置の産業グループに厚く、SEMI(UCITS/Acc)で世界分散×再投資を選べる。
同じ“計算資源”でも器を変えると、税・為替・配当再投資のチューニングが利くのが実務上の強みだ。
計算資源ETFカタログ
SOXX – iShares Semiconductor ETF(米国/王道・時価総額型)
- 連動指数:NYSE Semiconductor Index(ティッカー:ICESEMIT)。BlackRock
- 経費:0.34%。BlackRock
- AUM・分配:純資産約145億ドル(2025/9/19表示)/四半期分配。保有銘柄数は30。BlackRock
- 上位10と比率(前回提示のとおり、2025/6/30FSベース):AMD、NVIDIA、Broadcom、Texas Instruments、Qualcomm、Micron、Marvell、Microchip、Lam Research、KLA(Top10≈58.6%)。※構成は時点で変動、直近の詳細はiShares Holdingsで確認可。BlackRock+1
- 直近の構成イベント:2021年にPHLX→NYSE(ICE)Semiconductorへ指数変更。その後も“米国上場の半導体30社・時価総額加重”の骨格を維持。BlackRock
- 所感:濃縮×時価総額型ゆえ、NVDA/AVGOなどAIサイクルの上位貢献をダイレクトに取りに行く“王道コア”。一方で決算シーズンは上位寄与の振れがリスク源にも。
SMH – VanEck Semiconductor ETF(米国/濃縮・大型寄り)
- 連動指数:MVIS US Listed Semiconductor 25。ETFデータベース
- 経費:0.35%。ETF & Mutual Fund Manager | VanEck
- AUM・分配:大規模(公式で日次更新)。分配実績は「Distribution History」に掲示。ETF & Mutual Fund Manager | VanEck+1
- 上位構成:日々のDaily HoldingsでNVDA/TSMC/AVGOが上位(NVDA2割前後、TSMC約1割強の局面あり)。約25–26銘柄の濃縮。※最新比率は保有一覧で随時確認。ETF & Mutual Fund Manager | VanEck
- 直近の構成の動き:AI演算(GPU)+装置(ASML/AMAT/LRCX/KLAC)まで厚く、上位集中がリターンの源泉。NVDAの指数寄与が特に効く。
- 所感:NVDA高比率を許容してAI主戦場のリスク・リターンを取りに行く選好に合致。
XSD – SPDR S&P Semiconductor ETF(米国/イコールウェイト分散)
- 連動指数:S&P Semiconductor Select Industry Index(修正イコールウェイト、S&P TMIから抽出)。SSGA+1
- 経費:0.35%。SSGA
- AUM・分配:AUMは数十億ドル規模/Quarterly分配。SSGA
- 上位10の顔ぶれ(先般提示の通り):SMCI、ARM ADR、Photronics、Axcelis、Teradyne、Monolithic Power、Onto、KLA、Synopsys、Cadence等で1社当たり比率が近い=単一銘柄依存を抑制。
- 直近の構成イベント:定期リバランスで“勝者偏重”を機械的に薄める運用。装置・EDA・検査まで裾野を取りやすい。SSGA
- 所感:コアに対してボラ緩和のサテライト/あるいは分散コアとして優秀。
SOXQ – Invesco PHLX Semiconductor ETF(米国/低コスト0.19%)
- 連動指数:PHLX Semiconductor Sector Index(30銘柄・時価総額、四半期リバランス/年1回リコン)。Invesco
- 経費:0.19%(超低コスト)。Invesco
- AUM・分配:Invesco商品ページにAUM・分配履歴・保有30銘柄を掲示。Invesco
- 上位10と比率(前回提示の例時点):NVDA ≈22%、TSMC ≈11%、AVGO ≈11%、以下AMD/MU/ASML/KLA/ADI/QCOM/TXNでTop10≈75%。※最新は商品ページ“Top Holdings”で更新。Invesco
- 直近の構成イベント:低コストでPHLXを取れる点が魅力。AI局面ではNVDA寄与を効かせつつ、費用差が長期複利に効く。
- 所感:“濃縮×低コスト”の実務解。SOXX/SMHと同系の取り回しでコスト最重視のコア候補。
CHPS – Xtrackers Semiconductor Select Equity ETF(米国/最安級)
- 連動指数:Solactive Semiconductor ESG Screened Index(セレクト型、ESGスクリーニング)。Xtrackers ETFs
- 経費:0.15%(最安級)。Xtrackers ETFs
- AUM・分配:DWS公式でKey Facts/FS公開。セレクト設計で銘柄数は広め。Xtrackers ETFs
- 直近の構成イベント:ESGスクリーニングを通過した米上場半導体へ低コストでアクセス。
- 所感:費用対効果を最優先する長期分散派の“サテライト”として優秀。
PSI – Invesco Semiconductors ETF(米国/Intellidexの攻め型)
- 連動指数:Dynamic Semiconductor Intellidex Index(モメンタム/クオリティ/バリュー/経営アクションなど複合スコア。四半期に再構成&再配分)。Invesco
- 経費:目安0.56%(直近はFSで要確認)。Invesco
- AUM・分配:Invesco公式に掲載。30銘柄構成。Invesco
- 直近の構成イベント:ファクター回転で顔ぶれが変わりやすい=サイクル取りに向くが追随は要監視。
- 所感:コアに対しα狙いの**サテライト10–20%**で噛ませると効率的。
FTXL – First Trust Nasdaq Semiconductor ETF(米国/スマートベータ)
- 連動指数:Nasdaq US Smart Semiconductor™ Index(Value/Volatility/Growthの改良ファクター加重)。First Trust
- 経費:0.60%(最新はFT公式を参照)。First Trust
- AUM・分配:First TrustのFund Summary/Distribution Historyに開示。First Trust
- 直近の構成イベント:スマートベータらしく指数ルールに沿って傾きを管理。
- 所感:“賢いβ”でコアの上に積む攻めサテライト。
SHOC – Strive U.S. Semiconductor ETF(米国/指数を2024/3に変更)
- 連動指数:2024/3/21にSolactive → Bloomberg US Listed Semiconductors Select (TR)へ変更。Strive Asset Management+1
- 経費:0.40%(FS/目論見書参照)。Strive Asset Management
- AUM・分配:Strive公式にKey Facts・分配等を掲載。Strive Asset Management
- 直近の構成イベント:ベンチマーク刷新で銘柄・重みの“癖”が変化。
- 所感:代替分散の受け皿。指数の新設/変更リスクは機能面の新しさとトレードオフ。
2243 – グローバルX 半導体 ETF(東証/円建てでSOX)
- 連動指数:PHLX(SOX)配当込み・円換算。Global X Japan+1
- 経費:信託報酬年0.4125%以内(税込、上限)。分配:年2回(3月/9月)。東証マネ部!
- AUM:公式サイトの「計数」欄で随時表示(直近は百億円規模)。Global X Japan
- 上位10・比率(先に提示の2025/8/29月次):NVDA ~11.5%、AVGO ~9.2%、AMD ~7.9%、TSMC ADR ~7.1% …(Top10中心で米SOXの王道)。※最新は月次PDF。Global X Japan
- 直近の構成イベント:SOXの四半期ウエイト調整・**年1回の銘柄見直し(9月)**を円換算で反映。東証マネ部!
- 所感:NISA/円建てで米半導体の王道指数を直接取りに行ける“使い勝手”が最大の魅力。
346A – NEXT FUNDS S&P500 半導体・半導体製造装置35%キャップ(東証/装置厚め)
- 連動指数:S&P500 半導体・半導体製造装置35%キャップ(円換算・配当込み)。1社上限35%、フロート時価総額加重。Next Funds+1
- 経費:0.352%(税込)。分配:年1回(毎年9/10基準)。Next Funds
- AUM:上場半年で十億円規模に成長(サイト掲示)。Next Funds
- 上位10・比率(先に提示の2025/8/29月次):NVDA ~36%、AVGO ~29%、以下AMD/TXN/QCOM/AMAT/LRCX/MU/ADI/KLAC。**装置(AMAT/LRCX/KLAC)**も明確に取れるのが特色。
- 直近の構成イベント:2025/3/27上場。その後、指数ルールどおりにキャップ再計算。S&Pの産業グループに限定するため装置比率が視覚的に厚いのが差別化。Next Funds
- 所感:円建てד半導体+装置”をキャップで偏重抑制しつつ取れる。2243(SOX)との補完に最適。
2644 – Global X 半導体関連–日本株(東証/日本の装置・素材に集中)
- 連動指数:FactSet Japan Semiconductor Index(日本の装置/部材/製造を広くカバー)。Global X Japan
- 経費・分配:Global X公式・目論見書に準拠(最新水準はサイト更新を参照)。Global X Japan
- AUM:規模は段階的に拡大。直近はモーニングスター等で確認可。モーニングスター
- 直近の構成イベント:露光・計測・封止・材料など“日本の強み”の装置/素材チェーン比重が高い。グローバル(SOXX/SMH/SEMI)+日本装置という形でキメ細かく取りたい時に。
- 所感:グローバルのコアに日本の装置αを積む“差別化トッピング”。
SEMI – iShares MSCI Global Semiconductors UCITS ETF(欧州籍/グローバル×Acc)
- 連動指数:MSCI ACWI IMI Semiconductors & Semiconductor Equipment Select ESG Screened Capped。BlackRock
- 経費:TER 0.35%(FS参照)。BlackRock
- AUM・分配・リバランス:AUM≈13–14億USD規模、Use of Income: Acc(再投資)、四半期リバランス。bxswiss.com
- 上位の傾向:ASML/TSMC/NVIDIA/AVGO/AMDが並びTop10≈6割。米一極回避+装置含む世界分散を一本で。最新のトップ10・比率はFSで随時更新。BlackRock
- 所感:再投資(Acc)×国際分散で複利を効かせたい口座・税制に相性良し。
(補足)SMH(UCITS) – VanEck Semiconductor UCITS ETF(欧州籍)
- 連動指数:MVIS US Listed Semiconductor 10% Capped ESG(単社10%上限)。ETF & Mutual Fund Manager | VanEck+1
- 経費:TER 0.35%(FS)。ETF & Mutual Fund Manager | VanEck
- 分配:UCITS版は配当方針・上場市場が複数(LSE/独など)。詳細はFSと取扱市場の情報で要確認。FTマーケット
- 所感:集中抑制(10% Cap)でSMH(米)より分散寄り。SEMIとの棲み分けで選択。
使い分け(総括メモ)
- 濃縮×上位効かせ:SOXX/SMH/SOXQ(指数の違い=NYSE vs MVIS vs PHLX)。
BlackRock+2ETF & Mutual Fund Manager | VanEck+2 - 分散×裾野:XSD(修正イコールウェイトで装置・EDAまで)。
SSGA - 低コスト:CHPS 0.15%/SOXQ 0.19%。
Xtrackers ETFs+1 - 円建て:2243(SOX円換算・年2回分配)/346A(S&P産業グループ+35%上限・年1回)。
Global X Japan+2東証マネ部!+2 - グローバル&再投資:SEMI(Acc・四半期リバランス)。
bxswiss.com
タイプ別に“あなたの一本”を決める
A. 「AIドライバー直撃」派(ボラ許容)
- コア:SOXX or SMH(好みで)
- 低コスト代替:SOXQ
- 補助:決算週・イベントは短期で機動を上げ、長期はあくまでコアで押す
B. 「裾野まで取りたい」派(安定志向)
- コア:XSD
- 補助:PSI/FTXL(ファクターで回す)、CHPS(費用最重視)
C. 「口座・税・通貨を最適化」派
- 円建て/NISA:2243
- 装置厚め×円:346A
- UCITS×再投資:SEMI(Acc)
D. 「短期ヘッジ・機動」派
- SOXS/SSG等はイベント時のみ(長期は×)。
FINRA/SECの警告通り保有期間は短くし、損切りと縮尺を先に決める。
finra.org+1
今日やること
- “軸”の一本化
自分がA/B/C/Dのどれかをまず決める(直近の資金流入・指数の上位寄与・AUM/流動性は各銘柄で確認しながら)。 - 実務の三点セット
- 通貨(円/ドル/ポンド)と税(分配/再投資)を決める
- リバランス頻度(年1–2回+イベント臨時)を宣言
- ドローダウン耐性の上限(例:−20%で10%縮小)を数値化して“先に”書く
- 情報の定点観測を“計算資源サイド”に寄せる
- 電力・系統(DCの電力需要見通し)=IEAの四半期更新で確認。
IEA Blob Storage - 半導体のトップライン(WSTS・SIA)=月次販売+年次見通しで温度感を掴む。
半導体協会+1 - 地政・規制(BISの更新・同盟国の域外適用ルール)=輸出管理の改定をウォッチ。
bis.gov+1
- 電力・系統(DCの電力需要見通し)=IEAの四半期更新で確認。
追加の“現実チェック”(計算資源セクターを握るなら)
- 電力はボトルネック
AI×DCの新設は電力系統の接続待ちに阻まれやすく、系統側も需要の弾力化(ピーク時の負荷カットや負荷移送)を試し始めている。
電力→DC→半導体の順で詰まりやすい箇所を把握しておく。
ザ・タイムズ - 景気循環の波を“指数の設計”で整流
“上位集中(SOXX/SMH/SOXQ)”はリーダー寄与が効く反面、決算一発で上下に振れやすい。
均等重み(XSD)/スマートベータ(PSI/FTXL/CHPS)は裾野と規律でボラを和らげる。
どちらが自分の睡眠の質を守れるかで決める。 - 輸出規制は“常在戦場”
2024年までの段階的強化に加え、2025年1月のAI拡散規制の議会報告が示す通り、国境越えのAI計算力は今後も監督対象。
サプライチェーンの再構築は多国間・長期線で続く。
bis.gov+1 - レバ/インバの取り扱い
「短期の道具」と割り切る。
毎日リセットの性質が複利の敵になり得る点は、FINRA/SECの公的警告で再確認する。
finra.org+1
物語の幕はいつも“光”から上がる。AIの光を強くするのは電力と半導体――だから最初の一手は、計算資源ETFで“照明”に出資することだ。
最後のひとこと
AIの物語は、派手なアプリや話題のモデルから始まるように見えて、実は舞台裏の“計算資源”で決まる。
光学、電力、シリコン、そしてそれらを束ねる装置とサプライチェーン。
ここが強いほど、物語は大きくスケールし、投資の複利も太くなる。
だから最初の一手は、主役のセリフではなく照明に賭けることだ。
計算資源ETFは、その照明卓に座る権利であり、AI文明の“加速ペダル”でもある。
上位濃縮で推進力を取りにいくか、均等重みやスマートベータで裾野を固めるか、あるいは円建てやUCITSで実務面を最適化するか。
選択肢は多いが、どれも「土台から押さえる」という一点で収れんする。
このシリーズは、今日の計算資源を“第一章”として、次にメモリ/パッケージ/ファウンドリ、さらにデータセンターREIT・電力・デジタル・インフラ・ロボティクスなどと、AI経済の骨格を順番に照らしていく。
台風の目はいつもインフラにある。
ノイズに振り回される前に、まずは土台を一枚確保しよう。
計算資源ETFをコアに据える——
ここからあなたのAI投資の長編は、静かに力強く始まる。