ナヴラトリと共に始まる「次世代GST」──インド経済の大転換と世界に広がる余波

ナヴラトリ初日、2025年9月22日。インドの夜明けと同時に「次世代GST」が施行される。
モディ首相はこれを「節約祭り」と呼び、全国民に向けて「家計が軽くなる祝祭」を約束した。

だが同じタイミングで、米国からはインド人材に直撃する「H-1Bビザ10万ドル」衝撃が飛び込んできた。
通商再交渉、テレコムの司法審理、公衆衛生の脅威、そしてテック産業の新波まで。

この数日で重なった出来事は、インド経済の未来を占う縮図のようだ。
ここでは主要テーマを整理し、投資家と生活者の双方にとっての意味を考える。


目次

1|次世代GST──「5%と18%」の二本柱で始まる節約祭り

これまで5%・12%・18%・28%と複雑だったGSTは、原則5%と18%の二本柱に簡素化された。

モディ首相は「12%帯に属していた99%の品目が5%へ下がる」と強調。
実際には医薬品、日用品、加工食品など広範な分野で税率が引き下げられ、すでに一部都市では菓子・スナック、ベーカリー商品などが7〜10%値下げされている。

さらに個人向け医療保険の18%GST撤廃も報じられ、健康関連の負担軽減が期待される。
これは「貧困層から中間層、農家、女性、若者まで全世代に恩恵が及ぶ」との首相演説と一致している。

一方で、たばこや贅沢品向けの40%特例税率は残るため、「完全に二スラブ化」とはいかない点には注意が必要だ。

投資的視点

  • 消費関連株
    値下げで販売数量が増える可能性。
    小売、食品加工は追い風。
  • 医療・保険株
    制度改正による需要拡大の芽。
  • デジタル会計関連
    税率変更に対応するためERPや会計ソフト需要が拡大。

2|「スワデシ」への回帰──モディ首相の呼びかけ

モディ首相は演説の中で「日常生活に入り込んだ外国製品を見直し、メイド・イン・インディアを選ぶべき」と強調した。

独立運動期に「スワデシ」が果たした役割を再び掲げ、消費行動を通じて産業を育てる戦略だ。
これは自国製造業の振興と、輸入依存を減らす狙いがある。

考察
この「スワデシ」は単なる愛国的スローガンではなく、米中摩擦や地政学リスクの中で供給網を国内に戻すための実利的な政策でもある。
特に中小製造業やローカルブランドにとっては、政策支援と消費マインドが重なり大きな追い風になり得る。


3|米国のH-1Bビザ「10万ドル」衝撃

同じ週、米国は新規のH-1Bビザ申請に10万ドル(約88万円ではなく約1,500万円)の一時的な申請料を課すと発表。
これまで1万ドル以下だった申請料が一気に跳ね上がり、世界を驚かせた。

ただしこの規則は新規申請のみ対象で、既存保持者や更新には適用されないと米国政府は明言している。
初期報道では「毎年支払う年額」との誤解も広がったが、最終的に「申請時の一度限り」と修正された。

影響

  • 米国内採用コストが上昇し、若手や一般職の新規採用は減速。
  • 米企業はコスト抑制のため、プロジェクトをインドなどの海外拠点にシフト。
  • 結果的にインド国内に新規雇用が流入する可能性がある。

インドが「グローバル人材ハブ」としての地位を強める契機となり得るが、短期的には米就労を夢見る人材にとって大きな壁になる。


4|米印通商交渉の再始動

こうした緊張の中でも、インドのピユシュ・ゴヤル商工相は9月22日に米国を訪問
二国間通商合意の再構築に向けた協議が再び始まる。
関税や人材移動の問題を抱えつつも、ソースコード不請求条項などデジタル分野での前進も期待される。

示唆

  • 輸出型産業(繊維、家具など)は短期的に関税の影響を受ける。
  • 一方で、国内代替生産(EMS、ローカルブランド)はスワデシ戦略と連動して伸びやすい。
  • SaaSや設計IP輸出では、コード開示不要ルールが追い風。

5|Vodafone Idea(Vi)のAGR再審理

最高裁はVodafone IdeaのAGR請求問題で、9月26日に再審理を予定。
政府側も「解決が必要」と述べ、株価は短期的に急騰した。

もし負債再計算や救済策が進めば、同社の存続可能性は高まる。
逆に救済が不十分なら資本希薄化リスクが残る。


6|ケララ州の「脳食いアメーバ」

公衆衛生面では、ケララ州で「Naegleria fowleri」による原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)が報告され、2025年だけで69例・19人死亡
致死率は世界平均で97%に達するが、ケララでは迅速対応で24%に抑えられている。

感染は鼻から入った水経由で脳に到達するため、泳ぐ際に鼻に水を入れないことが予防策となる。
人から人への感染はなく、飲水経由でも広がらない。


7|メタの新AIグラス「Ray-Ban Display」

テック分野では、メタがRay-Banブランドでディスプレイ内蔵AIグラスを発表。
カラーディスプレイを備え、手首のNeural Bandで操作できる。
価格は799ドル。

ナビやメッセージ、字幕表示など日常利用を想定した「軽AR」製品で、インドでも注目を集めている。


結論──「節約」と「人材シフト」の二重の波

ナヴラトリの初日に始まった次世代GSTは、家計の軽減と消費マインド刺激という祝祭的な側面を持つ。

一方、米国のH-1B新制度はインド人材の海外流出に制約をかけつつ、国内雇用を呼び込む可能性を秘める。

テレコム司法や感染症リスク、テック産業の新波まで複合的に動く今、インド経済は「節約による内需拡大」と「グローバルシフトによる外需吸収」の両輪で前進している。

筆者の視点
これらは偶然の同時発生ではない。
世界経済の構造転換が、インドに「内需強化」と「人材ハブ化」という二重の役割を課している。
2025年後半から2026年にかけて、インド株・ルピー市場は一段とグローバル投資家の関心を集めるだろう。

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