ロボットの常識が書き換わる
固定形状・決め打ち動作のロボットは過去のものになりつつあります。
- カリフォルニア大学バークレーの形状可変ロボ設計フレーム
 - 中国の8ミリグラム級ソフトロボの“三重応答”
 - 韓国のヒューマノイドと都市スケールの実証
 - エンタメの“デジタル俳優”
 - ソウルでのロボットスポーツと造船現場の蜘蛛型ロボ。
 
断片に見えるニュースを一本の線で結ぶとロボットが現実世界の複雑さを直接学び、形状・感覚・判断を統合して働くというパラダイムが浮かび上がります。
バークレー発「メタトラス」:制御地獄をAIで突破する形状可変ロボ
メタトラス(多数のビームと関節で構成された可変骨格)にアクチュエータを足せば足すほど、制御チャンネルは指数関数的に膨張します。
従来は人手で“束ねる”設計が必要でしたが、研究チームは遺伝的アルゴリズムで必要最小の制御チャンネルに自動削減しつつ、形状変化・移動・把持などの性能を満たす解を探索。
筋シナジー(筋肉を機能単位にまとめて使う)に近い“協調制御”をロボに持ち込みました。
試作はロブスター風歩行体から触手アクチュエータまで多様で、驚くほど少ない制御で複雑動作を実現しています。
さらに将来的には生成AIを重ね、ユーザーの体格や用途(ヘルメット、介護用シーツ、可変剛性チェアなど)から設計と制御ロジックを自動生成する構想も示されています。
Berkeley Engineering
ポイント
- 制御チャンネル数の“甘い最適点”を探索して複雑動作を維持
 - アクチュエータを“群”として賢くまとめるシナジー発想
 - 生成AIと合流すれば、用途から“形と動き”を自動設計
 
一台多能工は現場ROIを一気に高めます。
鍵は耐久・保全・安全。
多関節×軽量素材は疲労と摩耗がボトルネックになりやすく、材料工学と予知保全AIの同時最適化が肝になります。
8ミリグラムの三重応答ソフトロボ:熱・湿度・磁場を干渉なく使い分ける
広東工業大学などの研究は、極薄ポリイミドに強アルカリ処理でポリアミック酸層を形成(熱・湿度応答)、さらにネオジム鉄ホウ素粒子を含むシリコーン層で磁場応答を付与し、熱・湿度・磁場の三重応答を一体化。
従来は刺激が干渉して性能が破綻しやすかったところを、信号分離性の高い積層構造で突破しました。
わずか8mgながら水上でホタルカミキリに匹敵する速度、陸上での転がり歩容、そして自重の2.5倍運搬を実証。
光パルスで形状変化させて荷降ろし→磁場で後退、の“ピック・搬送・リリース・帰還”サイクルも成立しています。
ResearchGate
応用の芽
- 配管・下水・湿地・ダムなど“混相環境”の保守・モニタリング
 - マイクロ搬送・バイオアシスト、将来的には低侵襲医療の足がかり
 
リスクと前提
生体安全性、群制御(通信・同期)、電源・回収プロトコル、規制・倫理。
標準化と認証の整備が実装速度を左右します。
背景素材としての高機能ポリイミドの重要性も増しています。
ResearchGate
韓国の「Capex」:生成AI脳×多指触覚で“物理AI”を現実で学ばせる
KIST(韓国科学技術研究院)とLG(Electronics/AI Research)は、視覚言語モデルEXAONEを“頭脳”に据えたヒューマノイド「Capex」を11月に公開予定。
多指ロボハンドの高感度触覚、強化学習とVLMで“実世界から学ぶ”ことを標榜し、4年以内の実証・商用化をターゲットに掲げています。
高出力アクチュエータの国産化で、サプライチェーンの主権も確保する戦略です。
Businesskorea+2毎日経済+2
要点
- 視覚言語モデル×触覚×RLで“現場で学ぶ”物理AI
 - 国産アクチュエータでコスト・修理SLA・輸出規制耐性を強化
 - 家庭・物流・医療・製造など汎用導入を視野に
 
競争地図
韓国は米中主導のヒューマノイド競争に“実装主義×内製”で割って入る構え。
実装の関門は故障率、保険料率、安全規格適合、フィールド学習におけるデータガバナンスです。
朝鮮ビジネス
エンタメの“デジタル女優”Tilly:技術の進展とファンベース経済の衝突
チューリッヒの映画サミットでAI合成俳優「Tilly Norwood」が披露され、SAG-AFTRAや俳優の強い反発を招きました。
論点は
①同意なき学習・外見利用
②雇用と創作倫理
③“ファンベース”
という資産の代替可能性。
英国メディアや米紙でも批評が展開され、合成俳優を巡る社会的・法的議論が一段と顕在化しました。
ガーディアン+2ガーディアン+2
現実的な落とし所
近未来は完全置換ではなく、若返り・スタント・群衆・多言語吹替など“ハイブリッド運用”が主流。成功の鍵は世界観の継続運用と人格の一貫性(コミュニティ運用)です。
「ロボットはスポーツで伝わる」:ソウルAIロボットショーの巧妙さ
ソウル市主催の初回イベントは、アーチェリー・短距離・重量挙げ・石打ち(ビソクチギ)の4競技でヒューマノイドが競う“見える化”に成功。
階段や瓦礫、煙、不整地に挑む極限ロボの実演、外骨格レースや対局など参加型の設計で一般層の理解を加速しました。
ロボスポーツは規格化・安全ルール・保険・メンテ市場の整備を促す“社会実装の近道”でもあります。
コリア・ジョンアン日報+2朝鮮ビジネス+2
産業の本丸:造船所に蜘蛛型、街なかに“盲目歩行”ヒューマノイド
KAIST発スタートアップDIDEN Roboticsは、磁気フットを備え壁や天井を自在に移動する“蜘蛛型”ロボで、サムスン重工の試験をクリア。
2026年の溶接・塗装タスク導入を目指します。
並行して、URoboticsはカメラや外界センサに依存しない“ブラインド歩行”を披露。
内部モデルで地形を“想像”し、階段・斜面・雨天でも安定歩行を実現しました。
Interesting Engineering+3Businesskorea+3Robotics & Automation News+3
KPIの現実
稼働率、品質一貫性、再作業削減、夜間稼働、占有空間、安全柵省略によるライン密度向上。
人件費置換だけではなく、事故回避コストや品質ボラティリティ低下まで含めた総合ROIで評価すべきです。
技術メモ
- 蜘蛛型は磁性材料・耐熱ケーブル・スパッタ対策が品質の分水嶺。
 - 盲目歩行は照度・粉塵・反射に強い一方、未知障害の検知限界があるため、スポット的な外界センサ(LiDARビーコン等)とのフェイルソフト設計が現実解です。
 
三位一体の収束:“形・感覚・学習”が物理OSへ
形状可変(表現力)、三重応答や触覚(感覚統合)、生成AI×RL(学習系)が重なると
ロボットは環境→知覚→判断→行動を横断する“物理OS”上でスキルを配信できるようになります。
アプリがOSに乗るように、現場課題がスキルモジュールとして流通する未来です。
どこが伸び、何が詰まるか:投資・事業の視点
伸びる領域
- 高出力アクチュエータ、可変剛性機構、精密減速機
 - 触覚・力覚センサ、磁性材料、耐環境エラストマー
 - 薄膜高機能ポリイミドなどの機能フィルム
 - SiC/GaN電力半導体、軽量電源・マイクロ電源
 - 現場実機学習のRL基盤、予知保全、デジタルツイン
 
詰まりどころ
- フィールド学習のデータ権利とプライバシー
 - 群制御の通信・同期・干渉
 - マイクロロボの回収・生体安全・規制
 - 可変機構の疲労・摩耗・保全コスト
 - ヒューマノイドの故障率・保険料率がROIを崩す懸念
 
まとめ:SFは現実に追いついた
- 形状可変はAI最適化で制御地獄を突破し“一台多能工”の現実味を高めた。
Berkeley Engineering - 8mgソフトロボは三重応答の干渉抑制で“環境をまたぐ”実用性の扉を開けた。
ResearchGate - 韓国のヒューマノイドは生成AIと国産アクチュエータで“物理AI”の商用ロードマップを描いた。
Businesskorea+1 - エンタメのデジタル俳優は、技術進展とファンベース経済・倫理の衝突を可視化した。
ガーディアン+1 - 現場では蜘蛛型溶接と盲目歩行が“産業の本丸”に踏み込みつつある。
Businesskorea+2Robotics & Automation News+2 
近い将来、ロボットは形を変え、群れ、学びながら、家庭・街・工場・船殻・配管の内側にまで常駐します。
勝つのは“派手なデモ”ではなく、保守・安全・SLA・保険まで面倒を見る実装主義のプレイヤーです。
あなたなら、形を変える“一台”と、虫サイズの“群れ”、どちらから現場に入れますか?




コメント