【論文解説】「実はごく少数の株がほぼ全部の富を生む」──Bessembinder研究で学ぶ“勝てる投資設計”

📚 出典・論文情報

論文タイトルWealth Creation in the U.S. Public Stock Markets 1926–2019
著者Hendrik Bessembinder(アリゾナ州立大学)
(米国公開株式市場における富の創出 1926年から2019年まで)

目次

なぜ“9割の銘柄”は市場平均を下回るのか?

「どの銘柄を選べば増えるの?」
この問いに正面から答えるほど、個別株は難しいのが現実です。
なぜなら、上場企業の過半が長期では“負け”で、市場全体の勝ちの大半は“ごく一部の超勝者”に集中しているから。
だからこそ、“当てにいく”より“取りこぼさない”設計に発想を切り替える必要があります。
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市場全体は勝つのに、個人投資家が負ける理由

本研究は1926〜2019年に上場した米国株26,168社1社ずつ“現金まで含めた最終的な富の増減”で測り直しています(SWC=Shareholder Wealth Creation)。
指標は「その会社に投資せずTビル(一ヶ月物)に置いていたら得られた金利」との差額です。
配当・自社株買い・増資まで反映する“実額の成果”と考えてください。
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結論はシンプルで強烈。

  • 市場全体+47.4兆ドルの富を創出(Tビル超え)。
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  • 個別株の57.8%は“負け”(Tビル未満)。
    勝ちの大半は少数銘柄に集中
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さらに直近3年間(2017–2019)は偏りが際立ち、全上場4,896社のうち0.16%(8社)だけで“総プラスの富”の25%を生みました。
0.98%(48社)で半分です。
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勝者総取り時代の最適解:コア&サテライト戦略

“取りこぼさない”コア+“狙って学ぶ”サテライト
この二階建てでほぼ全て解けます。

コア広く・薄く・自動で持つ(市場インデックス)。

超勝者が誰かは事前に特定不能。だから市場ごと抱える

実際、市場全体は+47.4兆ドルの“果実”を出してきた。
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サテライト小さく仮説に賭ける(産業・テーマ・一部個別)。

例えばヘルスケア/テレコム“所属企業数の比に対して”より多くの富を生みやすかった(相対効率)。

テレコム1.77/ヘルスケア1.49/テクノロジー1.34
テックは“額”では最大だが、群としては波が大きい
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重要な直感:リターン分布は右に長い“歪み(ポジティブ・スキュー)”
平均を押し上げるのはごく一部
無作為な集中投資は市場平均を下回る確率が高い
ゆえに低コスト分散が合理的、という理屈です。
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きょうからできる5ステップ

以下は初心者向けの実装レシピ

1. 配分を決める(紙に書く)

  • コア80%:世界/米国の広い指数を毎月自動積立
  • サテライト20%
    • A:10%テレコム・ヘルスケアに寄せたETFや厳選ファンド
    • B:10%テックの“勝者候補”(テーマETF中心。個別はさらに少額)

2. 自動化する

  • 毎月同額の積立で時間分散
  • 売買判断を“考える前に自動で終える”設計に。

3. 年1回“比率だけ”直す

  • 値上がった部分を少し売り、減った部分を買い足して最初の比率へ戻す感情を封じる儀式)。

4. 学びの余白を残す

  • サテライトは“授業料”の意識で小さく。
  • 成果や失敗をメモ→翌年の配分微調整に活かす。

5. 絶対にやらないこと

  • ニュースで配分をコロコロ変える
  • 短期の値動きで積立を止める
  • サテライトをコアより大きくする

この設計が向く人・向かない人

この設計が合う人

  • 仕事や学業が忙しく、“放置で増える”土台を作りたい
  • 超勝者を外したくないが、個別当てモノは避けたい
  • ルールを決めたら機械的に続けられる

合いにくい人

  • 一発逆転を好む
  • 日々の値動きに耐えられない(積立を途中で止めがち)

直近の偏りは特に強く、2016→2019の市場全体の増加分の22.1%を、Apple・Microsoft・Amazon・Alphabet・Facebookの5社だけで説明
「少数が全体を動かす」現象はむしろ強まっています。
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“取りこぼさない投資”が未来の富を運ぶ

これだけでOK

  1. きょうコア80%/サテライト20%を紙に書く
  2. ブローカー/証券で自動積立を設定
  3. サテライトはテレコム・ヘルスケア比重のETFに10%、テック系テーマに10%
  4. 年1回だけ作業(比率を戻す)
  5. 最低3年は手を加えない

なぜ“コア&サテライト”が機能するのか

① 「富の測り方」が現実的

この研究のSWCは現金の出入りをすべて拾って、最後に“もしTビルだったら”との差額で確定します。
配当・自社株買い・増資が結果に反映され、“最終的にいくら富が増えたか”をドルで見るため、投資家の実感に近いのが強みです。
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② 「多数派は平均未満」=分布の歪み

長期の株式リターンは右に長い尾(ポジティブ・スキュー)
平均を押し上げる少数の超勝者に出会えないと、無作為に選んだ集中ポートフォリオは市場平均を外しやすい
よって“低コストで市場全体を持つ”戦略が、初心者ほど再現性が高い
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③ 「勝者集中」は年々強まっている

0.16%→全体の25%(2017–2019)という極端な集中は、“勝者総取り”構造の表れ。
インターネット経済がそれを後押ししている可能性も指摘されます。
だからこそ“広く保有して取りこぼさない”が合理的です。
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④ 産業ごとの“効率”でサテライトを賢く

テレコム1.77/ヘルスケア1.49/テクノロジー1.34
“所属企業数に比べてどれだけ富を生みやすかったか”を見ると、意外に地味な領域が強い
これをサテライト配分に生かすのがコツ。
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⑤ 時期によって“地合い”は大きく異なる

2017–2019過去最大の+10.87兆ドル(三年合計のネット富創出)。
一方で1930–32、1999–2001、2008–2010などはネットでマイナスの時期も。
積立+長期+年1回の調整だからこそ波をならせる
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まとめ(1段で言い切る)

  • 市場総体は大きく富むが、個別の多数は沈む
  • だから“コアで丸ごと・サテライトで小さく”
  • これが超勝者の果実を自然に受け取る最短ルート

出典

出典:Hendrik Bessembinder, Wealth Creation in the U.S. Public Stock Markets 1926 to 2019, 2020(最新稿)。主要数値:市場+47.4兆$負け銘柄57.8%0.16%の企業が25%の富(2017–2019)産業の相対効率(テレコム1.77等)。ssrn_id3728842_code667 ssrn_id3728842_code667 ssrn_id3728842_code667

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