インド経済は高成長を続けているのに、株式市場はこの1年ほど大勢が横ばい。
この“ねじれ”はなぜ起きるのか。
結論から言えば、割高に傾いた評価(バリュエーション)、企業利益(EPS)の伸び悩み、需給の重さ(IPO供給・海外資金の後退)という三層の摩擦が同時に作用している。
さらに、ペイントやクイックコマースなど主要分野で競争激化が利益率を圧迫しており、マクロの勢いがそのまま株価に転写されにくい地合いが続いている。
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投資家がまず押さえるべき全体像
インドでは個人投資家の裾野が急拡大し、デリバティブ口座(デマット口座)はプレコロナの約4千万から、2025年には2億口座を突破。
若年層の流入が加速した一方で重複口座も増え、参加者の増加が「相場は常に右肩上がり」という期待を強めやすい土壌を作った。
だが、株式の本質は「好不調の波」を内在する長期ゲームだ。
The Economic Times+1
資金フロー面では、積立投資(SIP)が過去最高水準を連発する一方、月によっては純流入が伸び悩むなど、勢いはやや息継ぎも見られる。
9月のSIP総額は2兆9,361億ルピーと高水準を維持したが、株式型投信全体の流入は減速した。
内需の柱は強いが、常に“アクセル全開”というわけではない。
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他方、海外投資家(FPI)のスタンスは明確に慎重だ。
2025年9月は27億ドルの売り越しで、年初来でも弱気の月が目立つ。
背景には、インドの相対的な割高感、地政学、世界景気の減速懸念がある。
もっとも直近は割高感の一部解消も観測され、フローは揺れ戻しも交えつつ“厳選モード”が続く。
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「GDP≠株価」の最大理由:利益が伸びにくい構造
株価は長期的に利益(Earnings)に従う。
この原則は古今東西で不変だ。
「株価は長期ではEPSの奴隷」という投資格言が示す通り、ファンダメンタルズから遊離した上昇は長くは続かない。
問題は、売上の数量は伸びても、利益率が守れない業種が増えていることだ。
Banyantree Advisors
たとえば、ペイント産業は従来の寡占状態に新規参入が相次ぎ、価格競争・販促合戦が常態化。
量は出ても粗利率と営業利益率が圧縮されやすく、株式市場からの評価は伸びにくい。
景気循環や住宅サイクルに追い風が吹いても、利益の薄さがボトルネックになる。
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クイックコマースは成長の象徴だが、配送コスト・人件費・値引き負担の重さから利益創出のタイムラグが大きい。
市場は「成長ストーリー」を好む一方、黒字化の確度と時期が定まらなければ、割高なマルチプルを正当化しにくい。
ブルームバーグ+1
もっとも、インド企業全体の利益が一様に弱いわけではない。
直近決算では素材やリテールなどが2桁増益を示すなど明暗が分かれる。
“どの利益が、どのセクターで、なぜ伸びたか”を見取り図として持つことが、停滞相場での差となる。
The Economic Times+1
割高バリュエーションという「摩擦」
インドは構造成長の魅力が強い分、グローバル平均に対するプレミアム(割高)が常態化しやすい。
2025年もMSCI IndiaのP/EはEM平均に対して高いプレミアムを維持し、投資家は「良いが高い」という古典的ジレンマに直面した。
最近はプレミアムがやや縮小方向という観測も出るが、依然として“買いたいが、今は高い”が海外勢の本音だ。Reuters+1
需給が重くなる仕組み:IPO・公募の“新株供給”と選別の進行
2025年は新規上場が活発で、年初来で80件・140億ドルの資金吸収(前年は190億ドル)。
IPO後のパフォーマンスにはバラつきが出はじめ、投資家は選別を強めている。
さらに年末にかけても大型ディール計画が相次ぎ、短期的には需給の上値を抑える力として働きやすい。
The Times of India+1
Eコマース大手のIPO準備など、話題性の高い案件が続く一方、オファー・フォー・セール(OFS)による既存株式の放出も含め、新旧の供給が重なる局面では指数は“横に寝やすい”。
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セクター別「利益の奪い合い」:現場の摩擦を具体的に
ペイント
新規参入がディーラー・流通へ高マージンを提示し、価格引き下げ・販促強化の連鎖に。
都市部の需要減速も重なり、FY26以降の回復待ちというトーンが主流。
The Times of India
クイックコマース/リテール
インフラ・配送・在庫の先行投資を回収するまでに時間を要する。
強者は黒字化のメドが見えるが、業界平均では損益分岐まで距離がある。
“規模の経済”が働き始める転換点を見極めたい。
ブルームバーグ
一方での好例
総合コングロマリットでは5GやO2C(石油化学)回復、リテール拡大が重なり、増益トレンドを維持する企業もある。
同じインド市場でも“利益の地形”は凹凸で、銘柄間の明確な格差が生まれている。
The Economic Times
「横ばい→再評価」へ向かうカタリスト
EPSの明確な加速
粗利率の改善、販管費効率化、価格最適化(値上げの実行)が連続性を持って現れると、評価は一気に反転する。
市場全体が横ばいでも、利益で先回りする企業は選別上昇する。
The Economic Times
競争の正常化(撤退・統合)
参入過多→淘汰のフェーズに入り、出血的な値下げが収束。
ペイントやクイックコマースで価格決定力の回復が見えれば、利益率は底打ちへ。
The Times of India+1
相対バリュエーションの調整×FPIの回帰
プレミアムの縮小やグローバル金利の落ち着きが重なれば、海外資金の復帰が現実味を帯びる。
フローの潮目は“割高の是正”とともにやってくる。
ブルームバーグ
需給イベントの一巡
年末〜翌年にかけてのIPO・公募ラッシュが一服すれば、需給の上値圧力が軽減。
既上場の中で利益進捗が可視化されている企業へ資金が回りやすい。
The Times of India
いまの相場をどう読むか:3つのシナリオ
ベースケース(確率中)
指数はレンジ内の往来。
ただし決算を起点に“利益サプライズ”銘柄の選別上昇が続く。
投資家はインデックス一括より銘柄勝負で超過収益を狙う局面。
The Economic Times
強気シナリオ(確率低〜中)
競争が正常化し、粗利率の連続改善→EPS上方修正。
FPIの買い戻しとIPO一巡が重なり、指数の上値が開く。
カタリストは値上げ定着やコスト吸収の進展。
ブルームバーグ+1
弱気シナリオ(確率低)
価格競争長期化、資金調達ラッシュ継続で需給悪化。
EPSが再び鈍化し、割高感が再燃。
“成長はするが利益が出ない”モデルへの選好が後退。
The Times of India+1
誤解されやすいポイントへの反論
「GDPが高成長なら株は上がるはず」
株価は将来利益の割引現在価値。
GDPの勢いが強くても、利益率が下がればEPSは伸びない。
割高な入り口で買えば、良いニュースでも株価は反応薄になり得る。
Reuters+1
「新規口座が増えているのに上がらないのは異常」
 新規投資家の増加は需給の追い風だが、__IPOなどの新株供給__が重なると相殺される。
フローのプラスと供給のプラスが同時進行だと、指数は横ばいになりやすい。
The Times of India
「それでも企業業績は強いのでは?」
 セクター間で濃淡が大きい。
素材・一部リテールなどは増益だが、競争直撃の分野は利益の立ち上がりが遅い。
“総和”ではなく“分布”で相場を読む必要がある。
The Economic Times
どこを見るべきか:利益の地形を描く“指標の読み方”
1)粗利率(売上総利益率)
コスト・価格競争の影響を最も早く映す。
連続改善は価格決定力の回復サイン。
The Times of India
2)販管費率/在庫回転
販促効率の改善や在庫最適化が営業レバレッジを生む。
クイックコマースはここが勝負所。
ブルームバーグ
3)EPSのガイダンスと実績乖離
上方修正の打率が評価を一変させる。
指数が動かない局面ほど、個別株の“決算ゲーム”が効く。
The Economic Times
4)相対バリュエーション
国内平均×同業他社×EM全体の三面比較で、“割高でも買う理由”を言語化できるか。
プレミアムの縮小は入り口コストを下げる。
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5)需給イベント
年末のIPO・OFS・指数入替は短期の歪みを生みやすい。
一巡後の資金回帰を想定。
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まとめ:横ばいは“無風”ではない——利益の回復線を先取りせよ 🌱
いまのインド株は、割高感・利益率の圧迫・需給の重さという三重の摩擦で「GDP成長→株高」の直結が妨げられている。
だがその内側では、粗利率の底打ちや販促効率の改善が見え始めた企業から、選別的な上昇が芽吹いている。
株価は結局、EPSのトレンドに従う。
指数の横ばいに焦らず、利益の連続改善が見える企業を丁寧に拾うこと。
それが、“停滞の中の強気”を実利に変える最短ルートだ。
Banyantree Advisors+1
参考ソース
デマット口座の急増と若年層の流入(Economic Times/Moneycontrol)、SIP動向と月次資金フロー(AMFI/Reuters)、FPIの売り越しとバリュエーション・プレミアム(Reuters/Bloomberg/GMO)、ペイント産業の競争激化(Times of India)、クイックコマースの収益化タイムライン(Bloomberg/Cornell)、IPO供給による需給の重さ(Times of India/Yahoo Finance)、直近決算のセクター別動向(Economic Times)。The Economic Times+13The Economic Times+13マネーコントロール+13


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