デジタル資産トレジャリー企業の台頭:市場を動かす新たな巨人たち

ここ数年で急速に存在感を増しているのが「デジタル資産トレジャリー企業(Digital Asset Treasury Companies, DATs)」だ。

これらは企業のバランスシートにビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を大量に組み込み、株式市場を通じて伝統的投資家から資金を集める仕組みを持つ。

もともとマイクロストラテジー(現・ストラテジー)が2020年にBTC購入を発表したことを契機に広がったが、今や規模も種類も大きく拡張している。


目次

DATsとは何か?

DATsはシンプルに言えば「暗号資産を財務戦略の中核に据えた上場企業」だ。

従来の企業が現金や国債を保有するように、DATsはビットコインやイーサリアムを戦略的に蓄積する。

投資家にとっては「ETFがなくても実質的に暗号資産にエクスポージャーを得られる銘柄」として機能するため

ETF承認前のBTC市場では大きな役割を果たした。


資金調達の仕組み

DATsが数百億ドル単位の暗号資産を購入できる背景には、多様な資金調達手段がある。

  • ATMプログラム(At-The-Market Offering)
    株式を市場で徐々に発行して資金を調達する方式。マイクロストラテジーが多用している。
  • 転換社債(Convertible Notes)
    将来的に株式に転換可能な社債を発行。機関投資家に人気。
  • PIPE(Private Investment in Public Equity)
    上場企業が機関投資家に割引価格で株式を販売する方式。特にSPACとの合併時に使われる。

結果としてDATsの株主には、ブラックロックやバンガードなど巨大資産運用会社が並ぶ。

暗号資産に懐疑的な顔を見せつつ、間接的には最大のスポンサーになっているのは皮肉な構図だ。


ビットコイントレジャリー企業

現在、150社以上がBTCを保有しており、合計で約100万BTC(供給量の4.7%)を抱える。

  • ストラテジー(旧マイクロストラテジー)
    最大手で約63万BTCを保有。2024年には「2121プラン」(株式21B+債券21B)を掲げたが、わずか数か月で完了し、現在は「4242プラン」(総額84Bドル調達)に拡大。主要株主はバンガード(15%)、キャピタルリサーチ(6%)、ブラックロック(5%)。
  • マラ・ホールディングス
    約5万BTCを保有。自社マイニングに加え、転換社債による調達を活用。ブラックロック15%、バンガード12%が主要株主。
  • 21キャピタル
    2025年に新興したプレイヤー。ストライクCEOジャック・マラーズ率いる企業で、テザーやソフトバンクなどが初期BTCを提供。SECに上場申請済み。

イーサリアムトレジャリー企業

BTCに続き、ETHを蓄積する動きも急速に拡大。

現在70社以上が存在し、合計で370万ETH(供給量の3%以上)を保有する。

  • ビットマイン
    もともとBTCマイナーだったが、ETH特化に転換。ピーター・ティールのファンドやアーク・インベストが主要株主。250億ドル規模の調達計画を進行中。
  • シャーリンク・ゲーミング
    スポーツベッティング企業から転身。ETH共同創業者ジョセフ・ルービンが会長に就任。数十億ドル規模の資金調達を進めている。
  • イーサーマシン
    複数企業の合併により誕生。創業者アンドリュー・キーズが個人で6億ドル超を投じた。

ソラナトレジャリー企業

リスク曲線をさらに下へと進み、ソラナ(SOL)を抱える企業も増加。

既に7社で400万SOLを保有。

  • ユペクシ:200万SOL以上。アーサー・ヘイズもアドバイザーに参加。
  • DeFi Development Corp:140万SOL。SECに10億ドル規模の調達を申請。
  • ソウル・ストラテジーズ:42万SOL。ATW Partnersが主要投資家。

その他のDATs

  • XRP:リップル株経由で間接保有する企業も登場。サウジ資本も参入。
  • BNB:カナダの元VAPE企業がBNBを288,888枚保有し、1%供給シェアを狙う。
  • DOGE:元豚肉加工会社のビットオリジンが7,000万DOGEを保有。

このほか、トロンやライトコイン、SuiなどでもDATsが立ち上がりつつある。


伝統金融と暗号の交差点

DATsの最大の特徴は「資金の出所は伝統金融」である点だ。

ブラックロックやバンガードといった巨人が株主として名を連ね、間接的に暗号資産に資金を流し込んでいる。

ETF承認の壁を迂回する「裏ルート」として、DATsはETFの代替商品としても機能する。


リスクと課題

ただしDATsには明確なリスクがある。

  • 暗号資産価格が急落した場合、企業は巨額の含み損を抱え、追加株式発行や債務不履行のリスクに晒される。
  • ヴィタリック・ブテリンも警告しているように、DATsが過剰にレバレッジをかければ「強制清算の連鎖」が市場を一段と下落させかねない。
  • アルトコインDATsは資金調達に苦戦しており、BTCに比べ投資家の関心が限定的であることを示している。

結論:DATsは次の強気相場の火薬庫

DATsの拡大は、短期的にはボラティリティを高めるが、中長期的には「新たな需要の受け皿」として市場を押し上げる可能性が高い。

株式市場を経由して、従来暗号資産に直接投資できなかった投資家の資金が流入するからだ。

次の強気相場では、DATsがETFに並ぶ新しい資産ゲートウェイとなり

特定銘柄(BTCやETH、あるいはSOLなど)の急激な価格上昇を引き起こす可能性がある。

つまり、DATsは「リスクを伴うが、時に爆発的な上昇の触媒」となる存在だ。

投資家は彼らの資金調達計画や主要株主の動きを注視することで、市場の大きな潮流を先読みできるだろう。

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