9月第2週、世界は同時多発的に大きな変化を迎えました。
日本では石破茂首相が辞任を表明。
ロシアはウクライナに対して開戦以来最大規模となる800機級のドローン・ミサイル攻撃を仕掛け、首都キーウが深刻な被害を受けました。
そしてインドでは、長年の課題だったGST(物品・サービス税)の大改革が発表され、税率を二段階(5%と18%)に簡素化し、主要な耐久財の大幅減税が9月22日から施行されることが決まりました。
これらは一見バラバラなニュースですが、資本市場にとっては共通のキーワード
すなわち「政策不確実性」と「消費刺激」という二つの軸でつながっています。
日本:石破辞任が映す「政治空白リスク」
石破茂首相は、夏の選挙での敗北と党内対立の激化を背景に辞任。
最大の意味は「政策の停滞リスク」です。
補正予算や税制改革のスケジュールが後ずれすれば、投資家は一時的に日本国債や為替の変動性に直面します。
短期的には内需ディフェンシブ(食料・通信・電力)が優位に立ち、公共投資関連や建設は不透明感からボラティリティが拡大。
中期では新しい指導部がどの政策アジェンダを提示するかが焦点となります。
ロシア:800機級空爆が示す「量による飽和戦略」
ロシアは一夜で800超のドローンとミサイルを発射し、キーウの政府中枢を攻撃。
防空システムは多数を迎撃したものの、「攻めは安く、守りは高い」というコストの非対称性が浮き彫りになりました。
市場は直ちに防衛産業・無人機関連・センサー技術・サイバーセキュリティへの資金流入を想定。
さらに欧州のエネルギー供給リスクが強まり、原油・天然ガス価格の下支え要因となります。
こうした地政学的緊張は金価格の上昇圧力にもつながります。
インド:GST二段化と耐久財減税は「消費の爆発燃料」
今回もっとも注目すべきはインドです。
GSTが5%と18%の二段階に整理され、ぜいたく品は40%に設定。
一方で、テレビ・エアコン・洗濯機・セメントなどは28%→18%に引き下げられ、9月22日から適用されます。
ディワリ前の需要期に合わせたタイミングで、消費刺激効果は絶大です。
例えば延床1000平方フィートの住宅を建築する場合、セメント400袋(1袋400ルピー換算)を使用すると総額16万ルピー。
旧税率28%では4万4800ルピーの税負担でしたが、新税率18%では2万8800ルピーに減少。
約1万6000ルピーの節約となり、その分は家電や内装への追加支出に回る可能性があります。
投資インパクトとしては
- 家電・小売:価格引き下げが即販売台数増に直結
- 建材・住宅:建築コスト低下により需要喚起
- 国産製造業:価格競争力の上昇で輸入代替が進展
- 医療・保険:税軽減が加入促進・医療機器需要を押し上げ
インド消費ETFや製造業ETFをコアに、建材・耐久財関連をサテライト的に組み込む戦略が有効です。
ブラッドムーン:宗教と消費心理の結合
今夜は今年最後の皆既月食、いわゆる「ブラッドムーン」。
インドでは宗教的な慣習と結びつき、購買行動や寄付、祭礼消費にも影響します。
経済的には直接関係しないものの、祝祭シーズン需要のブーストを測る一つの行動経済学的シグナルとなります。
米印関係:トランプ発言は「見出しノイズ」
トランプ大統領は一時「インドとロシアを中国に失った」と挑発しましたが、直後に「モディとは永遠の友人」と軌道修正。
モディ首相も即応でポジティブな声明を出しました。
市場が読むべきは、こうした発言の揺らぎではなく、対中戦略におけるインドの重要性。
最終的に米印関係は「管理された緊張」として推移し、見出しリスクは短期的ボラティリティにとどまります。
今後30日の市場シナリオ
- 基本シナリオ
日本は政局不透明、欧州は防衛需要増、インドは消費ブーム
→ 日本は内需株、欧州は防衛関連、インドは消費ETFで構成 - 上振れシナリオ
米印関係改善が早まり、インドの販売データが予想超過
→ 耐久財・建材を積極的に追加 - 下振れシナリオ
ロシア攻撃が再加速し原油高騰
→ 金ロング・原油ショートで防御、インド小型株は軽く
実務アクション
- イベント管理:日本の政局日程、インドGST施行日、欧州防衛入札をカレンダー化
- セクター調整:日本はディフェンシブ比率増、欧州は防衛比率増
- インド消費データ収集:EC販売・セメント出荷・住宅ローン承認件数を週次で追跡
- 地政学ヘッジ:金・原油・通貨でリスク管理
- 見出しノイズ対策:米印関係は一次ソース確認後に必要ならヘッジ
筆者の見解:鍵は「政策実装の速度」
今回の3つの出来事を「速度」で整理すると鮮明になります。
- インド:減税を祝祭期に間に合わせた「最速の政策実行」
- 欧州:防衛需要を背景に続く「持久戦型の政策」
- 日本:辞任により「再設計が必要な政策」
結局、投資家が注視すべきは「言葉」ではなく「実装のスピード」です。
9月の勝ち筋は、インド消費の爆発力と欧州防衛投資の持続性。
日本はディフェンシブで守りながら、新政権の政策再出発を待つ。
これがもっとも現実的かつ再現性の高い戦略です。
この分析は、ニュースの断片をつなげて見えてくる「不確実性と速度の差」に基づく筆者独自の視点です。
市場はノイズに振り回されますが、本質は実行の早さにあります。