週明けの暗号資産市場は軟調な滑り出しとなった。
米東部時間の正午時点で、ビットコインは約11万4,000ドルへ小幅下落、イーサリアムは約2%安、ソラナは4.5%安の233ドル付近まで売られた。
一方で米株式市場は上昇基調を保ち、マクロ環境は「株高・クリプト安」というねじれを見せている。
弱含む雇用統計と落ち着きを見せるインフレ指標が利下げ期待を強め、今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)での25bp利下げ観測が優勢になっているからだ。
だが、このマクロの波の下で、暗号資産業界には新たな衝撃が走った。
Helius Medical Technologies(HSDT)が、ソラナ(SOL)を基軸資産とするデジタル資産トレジャリー(DAT)立ち上げのために5億ドル超を調達、さらに12.5億ドル相当のワラントを組み込む大型案件を発表したのだ。
このニュースを受けてHSDT株は一時150%超急騰。
主幹投資家はPantera CapitalとSummer Capitalであり、暗号資産投資の新局面を象徴する動きとなった。
DATとは何か――マイクロストラテジーからソラナへ
DAT(Digital Asset Treasury)は、上場企業が資本市場を通じて調達した資金で暗号資産を保有・運用し、その成果を株主に還元する仕組みだ。
先駆けはマイクロストラテジーによるビットコイン大量保有。
その後はイーサリアムを中心とする事例も登場し、今回のHeliusによって「ソラナ版DAT」がついに立ち上がることになる。
この仕組みが注目される理由は、単にトークンを保有する以上の付加価値を生み得る点にある。
- 調達資金をSOL購入に充て、ステーキングやレンディングで利回り(年6〜8%)を得る
- ワラントや株式発行を活用し、資本市場のテコで保有SOLを増やす
- 長期的には1株当たりSOL保有量(SPS)を逓増させる設計が可能
つまり「SOLを直接買うよりも、株式を通じて間接的に保有した方がSOL換算で資産が増える可能性がある」という新しい投資ロジックが提示されている。
なぜソラナなのか――スピードと実需
Pantera CapitalのCosmo Jiangはインタビューで、ソラナを選んだ理由を「一体型アーキテクチャの強さ」と「実需拡大」にあると強調した。
- 高スループットと低コストがDeFi・NFT・ミームコイン・DePINなど多様なユースケースを支えている
- ステーキング収益が安定的で、DATの収益基盤に直結する
- トークン化や決済など、伝統金融との橋渡し案件が急増している
すでにビットコインやイーサリアムのDATは出揃いつつある。
これに対し、ソラナはまだ「空白地帯」だった。
Panteraは「主要トークンごとに大手DATが2〜3社並立する」と見ており、Heliusがその一角を占める構図を描いている。
資金調達のストラクチャー――5億ドル超+12.5億ドルの仕掛け
Heliusが発表したのは二段構えの資金調達だ。
- 5億ドル超のPIPEで即時のSOL購入と運営資金を確保
- 12.5億ドル相当のワラントで将来の資本増強余地を確保
株価上昇局面ではワラント行使により自己資本が厚くなり、押し目では追加のSOL購入余力を持てる。
さらにステーキング複利効果が加われば、SPSを逓増させる設計が成立する。
ただし希薄化リスクも伴い、発行ペースとNAV管理の巧拙が投資成果を左右する。
マクロ背景――「株高・クリプト安」のねじれ
今回の発表は、FOMC前の市場調整が強まる中で行われた。
暗号資産は先物建玉の巻き戻しや資金調達率の変動により短期売り圧力がかかりやすい。
一方で株式は「利下げ→バリュエーション拡大」というロジックで買いが先行している。
同じ「金利低下」でも、資産クラスごとに影響経路が異なることを示す好例だ。
PayPalの動き――P2Pに暗号資産を統合
同日、PayPalはPayPal/VenmoなどのP2P決済に暗号資産送金を統合することを発表。
これは利用者にとっての利便性を大幅に高め、オンチェーン決済の普及を加速させる可能性がある。
株式市場でのDAT拡大と、決済インフラでの暗号資産統合は、エコシステム全体の強化につながる動きだ。
投資家が注視すべきポイント
- SPS(1株当たりSOL)の推移
- ワラントや増資の希薄化リスク
- ステーキング/レンディングのリスク管理
- 先物・オプションなどヘッジ方針
- 会計・開示の透明性
- 規制対応(米・EU・アジアでの扱い)
筆者の視点:第3幕は成功するか
マイクロストラテジーが切り開いた「ビットコインDAT」の成功は、市場に巨大なインパクトを残した。
イーサリアムDATも着実に増えつつある。
そして今、ソラナの番が来た。
Heliusの挑戦は、単なるSOL保有ではなく、資本市場とオンチェーン収益の複合設計という点で一歩進んだ試みである。
ただし、投資家にとっては「株式」としてのリスク(経営の巧拙、希薄化、監査、規制)が追加で乗ることを忘れてはならない。
SOL価格と株価が逆行する可能性も十分あり得る。
だからこそ、NAVと株価の乖離や増資設計を冷静に追い続ける必要がある。